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交通事故

【交通事故】接骨院、整骨院、鍼灸、マッサージ等の施術費が問題となる事案

2021.04.19

1.はじめに

以前にも簡単に説明したことがありますが、実務において整骨院などの施術費が交通事故による損害として認められるかが問題となることが少なくありません。

 

交通事故の場合、事故直後の初診には医療機関において一定の外科的治療が施され、その後は整骨院などに通院するというケースがよくあります。

 

治療を受ける側としても、整骨院などが自宅や職場の近くあったり、医療機関に比べて営業時間が長かったりすることから、できれば整骨院などで治療を進めたいという気持ちになられるのだと思います。

 

しかしながら、整骨院などで受けた施術費の全額が必ずしも加害者の賠償すべき治療費として認められるとは限りませんので注意が必要です。

 

 

2.どのような場合に認められるのか?

一般に、接骨院などの施術費については、症状により有効かつ相当な場合、特に医師の指示がある場合などは認められる傾向にあるとされています。

 

これは交通事故事件において一般に利用されている「赤い本」という文献の記載内容です。

 

ちなみに自賠責保険の支払基準においては「必要かつ妥当な実費」を認めると規定されています。

 

では、どういった場合に、「有効かつ相当」とか「必要かつ妥当」といえるのでしょうか。

 

一つ重要な裁判例を見てみましょう。

※下線は当事務所によるもの

 

【東京地裁平成14年2月22日判決】

 

事案の概要

自動車と衝突した自転車の運転者の男性が接骨院における施術費として175万2500円を請求しました。

 

判旨

(1) A整骨院での施術費を損害として計上することができるか

 ア 鍼灸マッサージ等の施術の必要性、合理性

 負傷した被害者が病院又は診療所において受けた医師又は歯科医師(以下、歯科医師と併せて「医師」と総称する。)による治療は、特段の事情のない限り、その治療の必要があり、かつ、その治療内容が合理的で相当なものであると推定され、それゆえ、それに要した治療費は、加害者が当然に賠償すべき損害となるから、加害者がこれを争う場合には、加害者が積極的に個別具体的な主張立証をしなければならない、と解すべきである。

 これに対し、被害者が自らの治療のために、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師又は柔道整復師(以下「あん摩マッサージ師等」という。)による施術を選択した場合には、その施術を行うことについて医師の具体的な指示があり、かつ、その施術対象となった負傷部位について医師による症状管理がなされている場合、すなわち、医師による治療の一環として行われた場合でない限り、当然には、その施術による費用を加害者の負担すべき損害と解することはできないのであって、施術費を損害として認めるためには、被害者は、①そのような施術を行うことが必要な身体状態であったのかどうか(施術の必要性)、②施術の内容が合理的であるといえるかどうか(施術内容の合理性)、③医師による治療ではなく施術を選択することが相当かどうか(施術の相当性。医師による治療を受けた場合と比較して、費用、期間、身体への負担等の観点で均衡を失していないかどうか)、④施術の具体的な効果が見られたかどうか(施術の有効性)、等について、個別具体的に積極的な主張、立証を行わなければならない、と解すべきである。なぜなら、あん摩マッサージ師等は、医師と異なり、その施術は限られた範囲内でしか行うことができない(外科手術、薬品投与等の禁止、脱臼又は骨折の患者に対する施術の制限等。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律四条、五条、柔道整復師法一六条、一七条)上、その施術内容の客観性、合理性を担保し、適切な医療行為を継続するために必要な診療録の記載、保存義務が課せられていないこと(医師法二四条一項、二項、歯科医師法二三条一項、二項の診療録の記載及び保存義務に関する規定が、前記各法律にはない。)、外傷による身体内部の損傷状況等を的確に把握するために重要な放射線による撮影、磁気共鳴画像診断装置を用いた検査をなし得ないこと(医師の指示の下に医師又は診療放対線技師が機械操作することとなる。診療放射線技師法二三条、二条二項。)、それゆえ外傷による症状の見方、評価、更には施術方法等にも大きな個人差が生じる可能性があること、施術者によって施術の技術が異なり、施術方法、程度が多様であること、自由診療で報酬規程がないため施術費が施術者の技術の有無、施術方法等によってまちまちであり、客観的で合理的な施術費を算定するための目安がないこと、といった点が指摘され、これらの事情を考慮すると、あん摩マッサージ師等による施術については、医師の治療のような必要性、合理性、相当性の推定をすべきではなく、それゆえ、施術費を、医師の治療費と同様に、加害者の負担すべき損害とするのは相当ではないからである。

 イ A整骨院における施術について

  (ア) 施術が医師の治療の一環として行われたかどうかについて

 前示認定事実によれば、原告は、A整骨院での施術治療期間中、B病院にも通院しているが、整形外科での受診は平成一一年一月一二日と同月二〇日のわずか二日間にとどまっており、B病院整形外科のb医師(以下「b医師」という。)は、同年一月二〇日に針治療を含めた加療を要する旨の診断をしたものの、それ以降、原告の治療に携わった形跡はなく、原告の身体状態について詳細不明としていることからすると、b医師は前記施術期間中に原告の身体の症状管理をしていなかったことが認められるから、A整骨院での施術が医師による治療の一環としてなされたものとはいい難い

  (イ) 施術の必要性、合理性、相当性、有効性等について

   a 施術の必要性、相当性

 b医師は、原告の身体状態が針治療等の施術も含めた治療を行うことについて必要性を肯定する。しかし、b医師は、原告の症状につき通院治療を続けながら経過観察を行うことを基本としていたと考えられ(一月一二日の記載)、診療録上施術に関する具体的な指示事項の記載や施術内容に関する聴取事項の記載が全くないこと、をも併せると、同医師は、原告の身体状態が鍼灸マッサージ等の施術を必要とする、との認識していたというよりは、むしろ、施術が原告に対する治療にとって特段障害ではなく、有用性は否定しない、という消極的な認識を有していたにすぎないと解されるのであって、結局、原告に対する施術の必要性を裏付けるに足りる具体的で合理的な証拠はないといわざるを得ない。

 そして、後述するとおり、施術は原告の身体症状にとって有効なものであったとは認められるものの、施術を行うことが、医師による治療を受け続けた場合と比較して、費用、期間、原告の身体への負担等の観点から相当であることを裏付けるに足りる証拠もない

   b 施術内容の合理性、有効性

 しかし、A整骨院での施術期間中、原告の症状(左上腕から左第四、第五指への疼痛、しびれ感、右半身の脱力感、右上腕部の疼痛等)がしだいに緩解、軽快していった状況と、原告が現に快復している状態であったこと、に照らすと、施術内容が合理性を有し、かつ、原告にとって有効なものであったと推認することはできる

  (ウ) まとめ

 A整骨院における施術は、医師の治療の一環として行われたものとは認められず、また、原告の症状に対して施術を選択することが必要で、合理的かつ相当であったとは認められない。

 しかし、施術そのものは、原告の症状を緩解させ、原告の快復に有効であったことは認められる。

 ウ 結論

 前示のとおり、A整骨院での施術が有効であったことは認められるが、その施術を行うことの必要性、合理性、相当性が認められない以上、同施術に要した費用を損害として加害者に負担させるのは相当ではない

 もっとも、前示のとおり、施術が原告の症状に有効であったこと、この施術期間中整形外科の治療費の支出がなかったこと(原告が医師による治療を選択せず、これを受ける機会が少なかったため、算定されるべき治療費に係る損害額も少なくなる。)を考慮すると、施術費を損害として計上せずに被害者たる原告の自己負担としてしまうことは、必ずしも、公平の観点から見て相当とはいい難い。

 当裁判所は、原告が、施術費を自己負担をしてでも施術を受けて軽快させたいと思う程度の症状に苛まれていた、との観点から、これを、後述する慰謝料の加算事情として積極的に評価するのが相当であると考える。これに対し、施術費中の幾らかを損害額として割合的に認定する考え方もあり得るが、そのような算定をするための合理的な基礎資料を収集、整理し、提出することは一般に容易ではなく、本件でもそれは十分でないため、割合数値を設定することは困難である。そこで、本件では、民事訴訟法二四八条によって、あえて施術費の費目で損害額を認定するよりは、むしろ、算定困難な損害額の算定として有用な慰謝料の費目で計上するのが合理的かつ相当であると判断した。

 

 

3.解説

この裁判例では、「医師による治療の一環として行われた場合でない限り、当然には、その施術による費用を加害者の負担すべき損害と解することはできない」としたうえで、以下の4つの要素を挙げています。

 

①そのような施術を行うことが必要な身体状態であったのかどうか(施術の必要性

②施術の内容が合理的であるといえるかどうか(施術内容の合理性

③医師による治療ではなく施術を選択することが相当かどうか(施術の相当性。医師による治療を受けた場合と比較して、費用、期間、身体への負担等の観点で均衡を失していないかどうか)

④施術の具体的な効果が見られたかどうか(施術の有効性

 

これは、医師の治療については原則その必要性、合理性、相当性が推定されるのに対し、整骨院等での施術については医師の指示がない限りその必要性、合理性、相当性の推定を行うべきではないという理屈によるものであると考えられています。

 

そして、このケースでは、整骨院における施術は、医師の治療の一環として行われたものとは認められないとしたうえで、施術の有効性は認められるものの(④充足)、施術の必要性、施術内容の合理性、施術の相当性が認められないこと(①~③充足せず)を理由に、整骨院での施術費は損害として認定されませんでした。

 

もっとも、慰謝料の加算要素として考慮を行うという結論をとって一定の調整を図っています。

 

このように、整骨院等での施術が事故による損害として認められないケースもありますので、整骨院等で施術を受けるか否かにあたっては慎重な判断が必要となります。

 

次回以降では、施術費が損害として認められたケースを紹介したいと思います。

 

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