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交通事故

【交通事故】盗難車で起きた事故~車の所有者は責任を負うか?~

2021.05.10

1.はじめに

あなたの車が盗まれて、盗んだ人間がその車で歩行者をはねるという交通事故を起こしたとします。

 

この場合、あなたは責任を負うことになるのでしょうか?

 

反対に言うと、事故の被害者である歩行者は、車の所有者であるあなたに対して責任追及をすることができるのでしょうか?

 

今回はこの問題について解説したいと思います。

 

自動車損害賠償保障法には次のような規定があります。

 

(自動車損害賠償責任)

第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

 

この条文から分かるように、車の所有者が損害賠償義務を負担することになるのは、当該所有者が「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)に該当する場合です。

 

車が盗まれた場合、車を盗んだ人間が車の所有者のために運転するということは普通ありませんので、所有者が「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当するということはないとも思えます。

 

では、裁判所はどのような判断をしたのかを見ていきたいと思います。

 

 

2. 運行供用者性が否定された(所有者の責任を否定した)ケース

【大阪高裁昭和46年11月18日判決】

 本件事故を発生させた訴外Aは、第一審被告との間になんら人的関係のない第三者であつたのであり(人的関係の不存在)、Aは事故車を勝手にタクシー営業行為に使用し、第一審被告の利益に反して、自己の利益を得たうえ(運転利益の帰属の不存在)、乗り捨てる意図のもとに事故車を盗み出したもので、従つて自身で第一審被告に返還する意思はなく(返還予定の不存在、車体に「サンキュー」と大書されているため、乗り捨てたあと第一審被告になんらかの方法で回収される蓋然性が存在することは、容易に考えられるところであるが、Aがその責任において返還を予定していたとは認められない)、その運転につき事後的に第一審被告の許容を期待しうるような関係には全くなかつた(許容の予測可能性の不存在)のであるし、また、事故車の保管状況からみても、ドアに鍵をかけず、エンジンキーを差し込んだままであつた(事故車の保管方法の杜撰なことが、第一審被告の担当従業員の第一審被告に対する債務不履行責任上の過失とはなつても、本件事故との間に因果関係の存在を認め難いことは、のちに認定する)とはいえ、一般人の通行の用に供される道路上に、あたかも一般通行人の運転を許容するかのように、一般通行人が極めて容易に運転できる状況のもとに放置していたというわけのものではなく、周囲をブロック塀で囲まれた第一審被告の営業所内に保管していたのに、Aは、扉が開いていたとはいえ、深夜裏口からタクシー車を盗み出すつもりで侵入し、事故車を窃取したものであつて、これらの事情を総合すると、事故車に対する第一審被告の支配は、Aが事故車を盗み出したときに排除せられ、本件事故のときには右Aのみが事故車の運行を支配し、運行利益も同人に帰属していたものというべく、本件事故につき第一審被告に運行供用者としての責任があるとすることはできない。(中略)結局自動車についてはそれが道路上に、あたかも、運転資格を問うことなく、一般通行人の運転を許容するかのように、一般通行人の誰でもが極めて容易に運転できる状況に自動車を放置したため、運転無資格者や泥酔者が運転し、所有者がこれらの者に運転を許容したのと同視できるような故意に近い重過失のある特殊な場合はさておき、少くとも本件のように、周囲をブロック塀で囲んだ営業所の構内に保管されていた自動車が盗み出された場合には、保管上の手落ち自体をとらえて、運転自体の過失から生じた事故との相当因果関係を肯定し、これを以て、保管上の過失による事故としての不法行為とすることはできない。

 

➢①所有者と窃盗犯との間に何らの人的関係がないこと(所有者と窃盗犯の人的関係)、②所有者が運転の利益を得ていないこと(運転利益の帰属の有無)、③窃盗犯が車を返還する予定がなかったこと(窃盗犯による返還予定の有無)④所有者が窃盗犯が運転することを許容していたと評価できないこと(許容の予測可能性の有無)、⑤所有者が車をブロック塀で囲まれた営業所内に保管していたこと(所有者の車両管理状況)、⑥窃盗犯が営業所内に侵入したうえで車を盗み出したこと(窃盗犯の乗り出し態様)などから、所有者の責任を否定しました。

 

 

【最高裁昭和48年12月20日判決(上記大阪高裁判決の上告審)】

本件事故の原因となつた本件自動車の運行は、訴外川口が支配していたものであり、被上告人はなんらその運行を指示制御すべき立場になく、また、その運行利益も被上告人に帰属していたといえないことが明らかであるから、本件事故につき被上告人が自動車損害賠償保障法三条所定の運行供用者責任を負うものでないとした原審の判断は、正当として是認することができる。(中略)おもうに、自動車の所有者が駐車場に自動車を駐車させる場合、右駐車場が、客観的に第三者の自由な立入を禁止する構造、管理状況にあると認めうるときには、たとえ当該自動車にエンジンキーを差し込んだままの状態で駐車させても、このことのために、通常、右自動車が第三者によつて窃取され、かつ、この第三者によつて交通事故が惹起されるものとはいえないから、自動車にエンジンキーを差し込んだまま駐車させたことと当該自動車を窃取した第三者が惹起した交通事故による損害との間には、相当因果関係があると認めることはできない。

 前示のように、本件自動車は、原判示の状況にある被上告人の車庫に駐車されていたものであり、右車庫は、客観的に第三者の自由な立入を禁止する構造、管理状況にあつたものと認められるから、被上告人が本件自動車にエンジンキーを差し込んだまま駐車させていたことと上告人が本件交通事故によつて被つた損害との間に、相当因果関係があるものということはできない。そして、この判断は、本件において、次のような事実、すなわち、被上告人は、本件自動車が窃取された約二〇日前である昭和四二年八月一日午前二時頃にも、エンジンキーを差し込んだまま本件自動車の駐車地点とほぼ同じ場所に駐車しておいたままタクシー車が窃取されたうえ乗り捨てられたという事実があつたが、盗難防止のための具体的対策を講じなかつたこと、被上告人の営業課長浅倉秀雄は、本件自動車が窃取される前、すでに、エンジンキーが差し込まれたままの状態にあつたことを知つていたが、そのまま放置していたこと、また、被上告人の当直者のだれもが本件自動車が窃取されたことに気付かなかつたこと等の事実が存し、被上告人の本件自動車の管理にはいささか適切さを欠く点のあつたことが認められることを考慮しても、左右されるものとはいえない。

 したがつて、被上告人が本件事故につき民法七一五条の不法行為責任を負うものではないとした原審の判断は,正当として是認することができる。

 

➢最高裁も所有者の責任を認めず、原審(大阪高裁昭和46年11月18日判決)の判断を正当なものであると結論づけました。

 

 

【東京地裁平成7年8月30日】

以上の事実によれば、いかに夜間で、人通りの決して多くない道路とはいえ被告Aは、被告車を、エンジンキーを着け、エンジンもかけたまま、ドアも施錠しない状態で公道上に放置した結果、被告車を窃取されたのであり、被告車の管理に過失があつたことは明かである。

しかしながら、被告Aは、被告車を停車させた場所は、被告Aが買い物に出かけたコンビニエンスストアーと隣接した路上であり、被告Aと被告車との距離は、数メートルと極めて短距離であること、被告Aは、コンビニエンスストアーでジユース等を買い物をするために被告車から約五分間と短時間、一時的に離れたに過ぎず、被告Aには、被告車を長時間放置する意図はもとよりなかつたこと、被告Aが被告車を離れた直後に、これを待ち受けていた訴外畑が被告車を窃取していること、被告Aは、被告車を窃取されたことに気づき、直ちに、被告車を窃取された旨警察に連絡し、同日午後一一時には被害届が作成されており、訴外畑ら第三者の運転を排除するための措置を取つていること、本件事故は、窃取後、約七時間半を経過した後に事故を起こしたのであり、窃取後、短時間後の事故とはいえないこと、訴外畑らは、被告車を窃取してから本件事故を惹起するまでの間、途中、仮眠を挟むなどした上、被告車を約三〇キロメートル走行させていること、被告車が窃取された前記「サークルK」前路上から本件事故現場までは、直線で約七、八キロメートルあり、距離的にも離れていること、訴外畑らには、被告車を返還する意思は認められないこと、被告Aと訴外畑らとの間には、親族関係はもちろん、何らの人的関係もないことが認められる。

これらの事実を総合考慮すると、被告Aは、被告車を第三者の自由使用に委ねたと評価できず、また、被告車の運行支配も運行利益も失つていると認められるので、自賠法三条の責任を認められない。

また、前記のとおり、被告Aに、被告車の管理上の過失があつたことは認められるが、本件事故は、直接的には訴外畑の過失によつて発生したものであり、右のとおりの窃取からの本件事故までの経過から見て、被告車は、既に被告Aの管理の影響を脱出していると認められるので、被告車の管理上の過失と本件事故との間に因果関係が認められず、被告Aには、民法七〇九条の責任も認められない。

 

 

3.運行供用者性が肯定された(所有者の責任を肯定した)ケース

【大阪地裁昭和61年3月27日判決】

前記認定事実によれば、被告会社は捜査機関に対し、加害車が被告会社と何ら関係のない第三者によつて窃取されたものであるとの被害届を提出しないため、捜査機関においてもこれを窃盗被疑事件として捜査せず、原告小坂を被害者とする業務上過失傷害被疑事件としてのみ捜査を継続しているものの、事故現場に犯人と結びつく物的証拠も残されていなかつたことからいまだ犯人を特定するに至つていないこと、〇〇警備(株)の事件当夜の警備員は、その警備報告書に、昭和五九年三月一九日午後八時三〇分の本件駐車場点検時にはトラツク七台が駐車されていたと記載し、その後の巡回において車両の増減がなかつたために右報告書には特別の記載がなされていないことから、加害車が本件駐車場を出発する時刻においても、なおトラツク七台が駐車されていたものと推認されるのに、事故後に駐車されていた車両も七台であつたというのであるから、右事実によると、被告会社関係者が、本件駐車場において、加害車に乗り換えたものとする余地も全くありえないものでもないこと、事件当夜に、本件駐車場にはエンジンキーが差し込まれたまま、ドアーに施錠もせずに駐車されていた車両が三台も存在したのに、本件駐車場中央西側に向け駐車されていたとする加害車が運行され(なお、警備員は加害車の発進音のみを聞いており、発進時に衝突があつたとする証拠はない。)、旧国道一七〇号線に面して駐車されていた加害車と同様にエンジンキーが差し込まれたままドアーに施錠もされていなかつた四屯車両及び本件駐車場南西に西に向け駐車されていた、本社事務所からの見通しのきかない同二屯車両が、その運行が容易であつたのに、これらは運行されなかつたこと及び加害車発進時刻から判断すると、照明燈から我が身を隠すというよりも、むしろ、加害車運転者は、特に、加害車を運行手段にすることを目的としていたものとも推認されること、加害車運転者は事故当時飲酒しており、蛇行運転して被害車と正面衝突したというのであるから、その運転者は、被告会社主張の如く、転売目的ないし乗り捨て目的のため常習として車両を窃取していた者とはいえず、事故を発生させたこと及び飲酒運転の発覚をおそれ、また、被告会社の許可なくこれを使用したことが発覚することをおそれたために現場を逃走したものとも考えられ、犯人が逃走している事実をもつて、運転手が窃盗犯人でなければならないものともいえないことが認められ、右事実のみでも、事故時の加害車運転手が加害車を窃取した犯人であり、被告会社は加害車の運行支配を離脱していたとする被告会社の主張はとうてい認めることができないうえ、全証拠によるも、加害車運転手が、被告会社の加害車に対する運行支配を離脱させるべく、乗り捨て目的でこれを運行していたものであると認めることもできない。

 のみならず、仮りに、事故時の加害車運転手が加害車を窃取した犯人であるもしても、加害車が駐車されていたとされる本件駐車場は、前記認定のとおり、旧国道一七〇号線に東側を面した間口が三〇メートルあり、四囲を囲む施設、設備などの工作物が建造されたこともなく、その南側三分の一は被告会社以外の第三者が駐車場として使用し、被告会社使用部分も、下請及び被告会社従業員並びに顧客などが自由に駐車できる駐車場であつて、客観的に第三者の自由に立入ることのできる駐車場であつたことが認められ、かつ、本件駐車場と本件事故現場とが場所的に、約二キロメートル弱の距離にあつて近接し、警備員川口が加害車の発進音を聞いた時刻と事故発生時刻とが近接しているうえ、飲酒した状態で加害車を蛇行運転し、長距離運転する状況になかつたことを考え合せると加害車の発進と事故発生とが時間的にきわめて近接していることが認められる本件では、被告会社の加害車に対する運行支配が、本件事故発生時において、既にその支配から離脱していたものとはいえない。

 

 

【東京地裁平成22年11月30日判決】

証拠(乙3、4)及び弁論の全趣旨によれば、被告車両が駐車されていた場所は、被告の八王子支店敷地内の駐車場であり、公道との間に外壁はなく、第三者が自由に出入りできたこと、被告車両は施錠されず、鍵は運転席サンバイザーに挟まれていたことが認められる。そうすると、第三者が無断で被告支店駐車場に侵入し、施錠されていない被告車両を窃取することは容易に予想することができ、被告は第三者が運転することを容認していたと同視されると評価されてもやむを得ない。被告車両が窃取されてから本件事故の発生まで長くても5時間半程度しか経過していないし、本件事故現場は窃取された場所から遠隔地でもない。被告が被告車両を窃取された後、本件事故が発生するまでの間に、被告車両が運転されないようにする措置を取った事実は認められない。

 そうすると、本件事故発生当時、被告は被告車両について運行供用者としての地位を失っていなかったというべきであり、被告は本件事故によって生じた原告の人身損害を賠償すべき責任がある。

 

 

3.まとめ

以上のとおり、盗難車による事故が問題となったケースにおいては、所有者の責任を否定する裁判例と肯定する裁判例のいずれもが存在しています。

 

これらの裁判例を分析すると、所有者の責任が認められるか否かは、①所有者と窃盗犯の人的関係、②所有者が運転の利益を得ているか否か、③窃盗犯が車を返還する予定があったか否か、④所有者が窃盗犯が運転することを許容していたと評価できるか否か、⑤所有者の車両管理状況がどのようなものだったのか、⑥窃盗犯がどのような態様で乗り出しを開始したのか、⑦車の窃盗と交通事故とが時間的・場所的にどの程度離れていたのかなどの諸要素を考慮して決定されるものと考えられます。

 

 

 

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