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交通事故

【大阪の交通事故弁護士が教える】会社役員の休業損害が認められるのはどのような場合?

2022.03.03

1.はじめに

休業損害とは、被害者が事故を原因とした受傷により、治療又は療養のために休業あるいは不十分な就業を余儀なくされたことにより、本来得られるはずの収入を得ることができなかったことによる損害のことをいいます。

 

つまり、休業損害が認められるためには、基本的には、現に休業し、減収が生じていることが必要とされており、損害額は休業期間中の現実の収入減をもって認定されることになります。

 

この点、会社役員の場合、会社との委任契約に基づいて報酬が支払われるところ、給与とは異なって休業したからといって直ちに全額を減額されるものではありません。

 

そういった特殊性があることから「会社役員の休業損害」という論点が問題となるわけです。

 

しかし、この問題に関する議論や解説を読んでいても、労務対価性がどうとか、利益配当部分がどうとか、企業損害が・・・など、とにかく分かりにくいというのが正直なところです。

 

まるで会社役員の場合であっても、無条件で休業損害が認められて当然というような書き方をしているサイトなどがあることも混乱の原因かもしれません。

 

そこで、今回はできる限り文献のウラをとっていきながら、分かりやすく説明をしてみようと思います。

 

 

2.原則、休業損害は認められない

前述のとおり、休業損害が認められるためには、基本的には、現に休業し、減収が生じていることが必要であるところ、会社役員の場合、事故による休業中も報酬が支給されるのが通常であるため、減収が存在せず、原則として休業損害は認められません。

 

ここで、とある文献に分かりやすい記載があるので紹介してみたいと思います。

 

Xは、会社から事故前と同額の報酬を支給されており、自己による傷害の療養のために現実に得られなかった収入(減収)が生じていない。したがって、Xの立場(個人企業の代表者、同族会社の取締役、長年雇用されてきた会社で部長職に昇進して取締役になった者)いかんにかかわらず、原則としてXの休業損害は認められない。

もっとも、例外的に、Xが、取締役部長など使用人兼務取締役として給与を支給されており、療養のために年次有給休暇を使用したような場合には、当該給与支給分については減収が生じていなくとも、取得した有給休暇の日数を休業日数として損害額を算定し、その賠償を請求することができる。

(『裁判官が説く民事裁判実務の重要論点 交通損害賠償編』271頁)

 

重要なのは前段部分ですね。

 

この「減収がない以上、立場にかかわらず、原則として休業損害は認められない」という部分はしっかりと押さえておくべきだと思います。

 

この原則をすっ飛ばして労務対価の議論などをしているサイトなどがありますが、ややミスリードな気がします。

 

 

3.では労務対価性の議論ってどういう場面で出てくるの?

減収がなければ、休業損害も認められないとなると、多くのサイト等で紹介されている労務対価性云々という議論は、一体どういった場面で問題になるのかという疑問がわいてきます。

 

ここでも先ほど挙げた文献の記載を紹介してみたいと思います。

 

休業損害や逸失利益の請求ができる場合には、Xの役員報酬のうち労務対価部分をもとに基礎収入を定めて、損害額を算定することになる。(中略)現実には報酬中の労務対価部分の区別は明確でないことも多く、前記のような類型的な考察だけでは足りず、諸般の事情をきめ細かく考慮して判断を行う必要がある場合も少なくない。

(『裁判官が説く民事裁判実務の重要論点 交通損害賠償編』272頁)

 

「休業損害が請求できる場合には(中略)労務対価部分をもとに・・・」ということは、裏返すと、休業損害が請求できないときには労務対価部分の議論をする必要はないというように読めますね。

 

別の文献の記載も見てみましょう。

 

受傷に起因して減額ないし不支給となった場合、労務対価部分(労務提供の対価と評価される部分)は休業損害として認められるが、利益配当部分(資本の対価ないし利益配当としての実質をもつ部分)については認められない。

(『交通賠償のチェックポイント』95頁)

 

ここでも「減額ないし不支給となった場合、労務対価部分は休業損害として認められるが・・・」とあり、反対に言うと減額や不支給がなければ労務対価部分の議論にはならないと考えられそうです。

 

以上をまとめると、減収があって初めて労務対価性の議論をすると考えて差し支えないと思います。

 

ちなみに、労務対価部分の判断においては、次の要素等を検討することになります。

①会社の規模(および同族会社か否か等)・利益状況

②当該役員の地位・職務内容、年齢

③役員報酬の額

④他の役員・従業員の職務内容と報酬・給与の額(親族役員と非親族役員の報酬額の差異)

⑤事故後の当該役員および他の役員の報酬額の推移

⑥類似法人の役員報酬の支給状況等

 

これらの各要素の詳細は赤い本2005年版下巻に解説されていますので、説明はそちらに譲りたいと思います。

 

 

4.減収がない場合には諦めるしかないのか?

これまで見てきたように、減収がなければ休業損害が認められないというのが原則です。

 

しかし、休業に起因する減額も不支給もない場合でも、当然にではないものの、企業の従業員等の場合と同様、肩代わり損害ないし反射損害が認められることもあります(『交通賠償のチェックポイント』95頁)。

 

とはいえ、簡単にこのような法律構成が認められるものではないということは同書の次の記載からもわかります。

 

理論上は会社の肩代わり損害・反射損害が認められることになるが、実務上は簡単ではない。まず、役員報酬を減額(不支給)していないときは、休業による(会社としての)損失がないからだと反論されることが考えられる。そのため、当該役員が休業したからこれだけ会社の売上が減少したという主張・立証をする必要があるが、この相当因果関係の立証は一般に容易ではない。(『交通賠償のチェックポイント』95頁)

 

ということで、理論上は企業の損害という構成も考えられますが、現実的にはハードルは高いと考えておいた方がよいと思います。

 

 

5.交通事故の翌年度(翌期)の報酬が減少した場合はどうか?

上記のとおり、事故後に減収がない場合には休業損害が認められないのが通常です。もっとも、事故による休業を原因として、事故があった年度の翌年度などの報酬改定のタイミングで報酬が減少したという場合に休業損害が認められないのでしょうか?

ここでは、事故の翌年度(翌期)に役員報酬が減少した事案において休業損害が認められた裁判例を概観してみることにします。

 

⑴ 東京地裁平成11年10月20日判決

事故当時1200万円であった役員報酬が、本件事故による負傷のため、翌年度以降、1000万円→150万円→260万円と減少した事案(後遺障害等級14級)。

→裁判所は、「役員報酬減少分をそのまま休業損害と認めるのは相当でない。」としつつも、「原告の労務の対価に相当する額と、症状固定時までの治療期間中に労働能力が制限された割合を前提に休業損害を算定するのが相当である。」として、役員報酬(1200万円)の7割である年間840万円を労務の対価分と認定し、同額を休業損害の基礎収入とした。

 

⑵ 名古屋地裁平成16年4月23日判決

事故当時810万円の役員報酬を得ており、期中の減額はされなかったが、事故により約5か月間休業したことを理由に次年度の株主総会において、原告の前年度の報酬のうち休業期間5月間分に相当する330円を減額する決議がされた事案(後遺障害等級9級)。

→裁判所は、「原告は、訴外会社の取締役とされ、取締役としての報酬を受けているが、実質は、取締役就任以前と同様に訴外会社の従業員として勤務していたと解され、原告に支給されていた報酬は、全て労働の対価であったと解するのが相当である。」として、330万円を休業損害と認定した。

  

⑶ 東京地裁平成28年11月17日判決

会社は原告(役員)の一人会社であるところ、事故当時1080万円(月額90万円)の役員報酬を得ていたが、本件事故により230日間業務に従事し得ず、本件事故の次年度より720万円(月額60万円)に減額された事案(後遺障害等級7級)。

→裁判所は、原告単独で印刷機器の販売等を行っていたことが認められることから、役員報酬は全て労務提供の対価というべきであるとしたうえで、役員報酬が月額90万円から60万円に減額された事実に照らし、30万円(90万円-60万円)を休業損害算定の基礎とした。

 

⑷ 上記裁判例の分析

以上のとおり、事故の翌年度以降に報酬の減少が生じた事案において休業損害が認められている事案があるのは事実です。

 

もっとも、事故の翌年度に報酬が減少したことが、事故による休業が原因であるということが大前提であり、当然のことながら事故以外の理由で報酬が減少したとしても休業損害にはあたりません。

 

また、一人会社などの小規模会社の場合には代表者自身の判断で減収させることが可能な側面があるため、翌年度以降に減収が生じたからといって直ちにその減少分が休業損害に繋がるとは考えられていません。

 

現に家族経営の会社の取締役の報酬不支給が問題となった裁判例(名古屋地裁平成12年5月12日判決)において「取締役報酬の不支給が原告の労働能力について本件損害賠償請求の存在を離れて適切に評価されたものか否か強い疑義を抱かざるを得ない」との評価を下したものがあります。

 

このような観点からすると、事故の翌年度以降に減収が生じたというようなケースにおいては、少なくとも事故による休業が原因で、事故があった翌年度以降に不支給や減収があり、かつ相応の休業状態が生じたことが立証できなければ、役員の休業損害が認定されるということは困難といえるかもしれません。

 

 

6.まとめ

以上をまとめると、会社役員の休業損害が問題となるケースにおいては、次のようなフローで検討してみるといいのではないかと思います。

 

・事故が原因で休業あるいは不十分な就業を余儀なくされたか

↓    ↓

YES  NO→休業ない以上、休業損害なし

・当該休業により減収が生じたか否か

↓    ↓

YES  NO→原則、休業損害認められない

    ※企業損害や事故翌年度以降の減収の検討

・役員報酬の中にどれだけ労務対価部分があるか

 →会社の規模、当該役員の地位等を考慮して判断

・労務対価性を有する部分について休業損害請求

 

 

以上の説明で少しは整理できたでしょうか。

 

今回の記事が、会社役員の休業損害の議論に悩んでいる方にとって少しでもお役に立てれば幸いです。

 

 

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