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離婚・男女問題
【離婚】年金分割を争う余地はある?相手方が年金分割に合意してくれないときはどうする?
1.はじめに
これまで説明してきたとおり、年金分割を行う場合には、按分割合は50%とするのが通常です。
そして、年金分割には合意分割と3号分割という2種類がありますが、3号分割ができる場合は、年金分割を求める側が年金事務所で請求しさえすれば一方的かつ自動的に按分割合50%で年金分割されますので、請求された側は争う余地はありません。
では、合意分割が必要なケース、たとえば夫の被扶養者となっていない期間のある妻が年金分割を求めるようなケースでは、夫は年金分割を争うことができるのでしょうか?
年金分割で自分の標準報酬総額の多くを妻に持っていかれたらたまったもんじゃないということで、合意分割を拒否し続けたらどうなるでしょうか。
合意分割というぐらいですので、「合意」さえしなければ大丈夫と思われるかもしれません。
では、実際はどうなのでしょうか?
2.一方が合意分割を拒否し続けたらどうなるか?
妻が合意分割を求めましたが、夫がこれを拒否し続けた場合どうなるでしょうか。
このような場合、離婚成立前であれば、通常は妻は離婚調停を申し立てて、そこで年金分割も求めるという流れになります。
では離婚調停でも夫は年金分割に合意しようとせず、条件が整わず調停が不成立になってしまったとします。
そのような場合には、妻は離婚訴訟を提起して、ここでも離婚訴訟の附帯処分として年金分割の按分割合の決定を裁判所に申し立てれば問題ありません。
離婚訴訟において、離婚が認められるのであればあわせて年金分割についても按分割合50%で認められるということになるでしょう。
他方で、離婚後に年金分割を求めるというケースもあります。
離婚後2年以内であれば年金分割の調停又は審判を申し立てることができます。
この場合でも、特段の事情のない限り書面審査のみで按分割合50%で年金分割が認められることになります。
以上からわかるとおり、離婚と一緒に年金分割を求めるケースであれ、離婚後に年金分割を求めるケースであれ、一方当事者が合意を拒否し続けたとしても法的手続をとりさえすれば年金分割は認められるということになります。
このような実務の運用があるため、年金分割を請求された側も必要以上に争うことなく結局は合意分割が行われるということが多いというのが実情だと思います。
千里みなみ法律事務所でも多数の離婚事件を取り扱っていますが、年金分割が真正面から争いになるケースというのは現在はほぼないと思います。
3.按分割合を争うことはできるのか?
以上のとおり、いくら争ったとしても法的手続をとれば年金分割は行われることになるわけですが、按分割合を争う余地はないのでしょうか?
たとえば、夫の婚姻期間中の標準報酬総額が1億円で妻の同期間中の標準報酬総額が2000万円というケースで按分割合を50%とすれば夫の標準報酬総額のうち4000万円を妻に移すということになります。
こうすることで、夫:妻=50%:50%=6000万円(1億円-4000万円):6000万円(2000万円+4000万円)となりますね。
しかし、この按分割合を30%とすれば、夫:妻=70%:30%=8400万円:3600万円ということで夫が妻に分割する標準報酬総額は1600万円で済むということになります。
ということで、夫としては按分割合を50%とすることを争いたいと思うところですが、このようなことができるのでしょうか?
まず、調停の場合はあくまで裁判所での話合いですので、50%を下回る按分割合とすることで互いに合意するのであれば、別に構わないということになります。
しかし、令和元年度の司法統計によると、離婚の調停成立又は調停に代わる審判事件のうち請求すべき按分割合の取決めがあった件数8064件のうち、按分割合を50%とした件数は8011件となっています。
つまり、離婚調停で年金分割が請求された場合、約99.3%のケースで按分割合は50%とされているということです。
わざわざ按分割合を50%を下回る形で調停を成立させる人なんてほとんどいないということですね。
また、同じく令和元年度の司法統計を見ると、離婚後の請求すべき按分割合に関する処分事件のうち按分割合の取り決めがあった件数1574件のうち、按分割合を50%とした件数は1568件となっています。
つまり、離婚後に年金分割の申立てがあったケースにおいて、約99.6%が按分割合50%とされているということになります。
この数字を見ていただくと、お互いの話し合いである調停でさえ按分割合を50%以下にすることはほぼなく、離婚後に年金分割が争われたとしても50%を下回る按分割合が認められることはまずないということがお分かりいただけるかと思います。
ということで、按分割合は争ったとしても特段の事情のない限り50%になるということを認識していただく必要があります。
4.年金分割に関する裁判例
上記のとおり、特段の事情のない限り按分割合は50%になるわけですが、具体的に年金分割の按分割合が争われた裁判例を見てみましょう。
【東京家裁平成20年10月22日審判】
年金分割対象期間約30年のうち、約13年間が別居期間というケースです。
別居期間中、妻は夫の送金する生活費で生活していました。
このケースで裁判所は次のように判示しました。
対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与は,特別の事情がない限り,互いに同等と見るのを原則と考えるべきである。なぜなら,被用者年金の中心となる老齢基礎年金は,その性質および機能上,基本的に夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的意義を有しているものであり,離婚時年金分割制度との関係においては,婚姻期間中の保険料納付は互いの協力によりそれぞれの老後等のための所得保障を同等に形成していくという意味合いを有しているものと評価すべきであって,いわゆる3号分割に関する厚生年金保険法78条の13に示された「被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について,当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識」は,特別の事情のない限り,いわゆる合意分割に関しても妥当するものと考えるべきであるからである。
そして,法律上の夫婦は,互いに扶助すべき義務を負っており(民法752条),仮に別居により夫婦間の具体的な行為としての協力関係が薄くなっている場合であっても,夫婦双方の生活に要する費用が夫婦の一方または双方の収入によって分担されるべきであるのと同様に,それぞれの老後等のための所得保障についても夫婦の一方または双方の収入によって同等に形成されるべき関係にある。
これを本件についてみると,申立人と相手方は,平成19年11月の離婚の裁判確定までの間は法律上の夫婦であり,当事者間の離婚判決(甲第4号証)を含む本件記録によれば,平成6年×月の別居後も,当事者双方の負担能力にかんがみ相手方が申立人を扶助すべき関係にあり,この間,申立人が相手方に対し扶助を求めることが信義則に反していたというような事情は何ら見当たらないから,別居期間中に関しても,相手方の収入によって当事者双方の老後等のための所得保障が同等に形成されるべきであったというべきである。
したがって,相手方が主張する事情は,仮に事実と認められたとしても保険料納付に対する夫婦の寄与が互いに同等でないと見るべき特別の事情にあたるとはいえないから,その主張自体失当であり,申立人と相手方との間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合は,0.5と定めるのが相当である。
➢婚姻期間のうち半分近く別居している事案でも按分割合は50%とされました。
【名古屋高裁平成20年2月1日決定】
婚姻期間約27年のうち、単身赴任期間が約13年、別居期間が約2年半というケースで、裁判所は次のように判示しました。
(1) 厚生年金保険法78条の2第2項は,裁判所は当該対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して年金分割における按分割合を定めることができる旨規定しているところ,厚生年金保険等の被用者年金が,婚姻期間中の保険料納付により,主として夫婦双方の老後の所得保障を同等に形成していくという社会保障的性質及び機能を有していることに鑑みれば,年金分割における被扶養配偶者の按分割合を定める際,上記一切の事情を考慮するにあたっても,特段の事情がない限り,その按分割合は0.5とされるべきである。
(2) 本件記録によれば,(ア)抗告人と相手方の婚姻期間は,昭和54年×月から平成19年×月までの332か月であり,(イ)抗告人は,a昭和63年×月から平成元年×月まで○○へ13か月間単身赴任をし,b平成5年×月から平成16年×月まで○○へ142か月単身赴任をし,c平成17年×月から平成19年×月までの31か月間別居期間があったものと認められる。
(3) このうち単身赴任は,仕事の都合から一緒に生活できないという状態なのであってそもそも別居とは異なるもので,特段の事情には該当しない。
また,夫婦間の相互扶助の欠如などによって夫婦関係が悪化して別居に至ったとしても,本件ではその期間が31か月間に止まり,この期間について上記制度趣旨に照らし検討すれば,原則的按分割合0.5を変更すべき特段の事情には当たらないと解するのが相当である。
(4) 本件記録によれば,抗告人の借金は,抗告人名義のものである以上,抗告人が負担することは当然のことであり,他方,相手方が抗告人との婚姻期間中に浪費・蓄財をしたことを裏付ける的確な証拠はない(実際,抗告人と相手方の離婚に関する和解において,相手方から抗告人に対して,財産分与として何らかの財産を給付するといった合意はない。)。そして,婚姻期間中に抗告人に借金が生じたことだけをもっては,原則的按分割合0.5を変更すべき特段の事情には該当しない。
➢婚姻期間のうち半分近くが単身赴任期間及び別居期間というこのケースでもやはり按分割合は50%とされました。
【大阪高裁平成21年9月4日決定】
年金分割を請求された夫が、①妻は夫と同居中も宗教活動に専念して夫との家庭生活を顧みることがなく,夫には筆舌に尽くし難い心労があり,精神的にも物質的にも妻は夫の保険料納付に寄与したとはいえない,②年金分割では個別具体的な事情を考慮した清算的要素が重視されているので,過剰な婚姻費用を取得し続けた妻は,保険料納付に寄与したどころか,経済的な障害でさえあったとして、争いました。
この事案において、裁判所は次のように判示しました。
(1) 年金分割は,被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度であるから,対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は,特別の事情がない限り,互いに同等とみて,年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当であるところ,その趣旨は,夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についての厚生年金保険法78条の13(いわゆる3号分割)に現れているのであって,そうでない場合であっても,基本的には変わるものではないと解すべきである。
そして,上記特別の事情については,保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られるのであって,抗告人が宗教活動に熱心であった,あるいは,長期間別居しているからといって,上記の特別の事情に当たるとは認められない。したがって,第2事件についての相手方の抗告理由①は理由がない。
(2) 相手方の抗告理由②については,前記2(3)のとおり,相手方が抗告人に送金した婚姻費用が過大であったとはいえないから,理由がない。
➢この裁判例でもあっさり夫の主張は排斥されて、按分割合は50%とされました。
【大阪高裁令和元年8月21日決定】
婚姻期間44年間のうち同居期間は9年間程度で、別居期間は約35年にのぼっているという事案です。
この事案において、裁判所は次のように判示しました。
前記認定のとおり,抗告人と相手方の婚姻期間44年間中,同居期間は9年間程度にすぎないものの,夫婦は互いに扶助義務を負っているのであり(民法752条),このことは,夫婦が別居した場合においても基本的に異なるものではなく,老後のための所得保障についても,夫婦の一方又は双方の収入によって,同等に形成されるべきものである。この点に,一件記録によっても,抗告人と相手方が別居するに至ったことや別居期間が長期間に及んだことについて,抗告人に主たる責任があるとまでは認められないことなどを併せ考慮すれば,別居期間が上記のとおり長期間に及んでいることをしん酌しても,上記特別の事情があるということはできない。
そうすると,対象期間中の保険料納付に対する抗告人と相手方の寄与の程度は,同等とみるべきであるから,本件按分割合を0.5と定めることとする。
➢別居期間が約35年という長期間にわたっている事案であっても、やはり按分割合は50%とされました。
5.まとめ
以上見てきたとおり、年金分割については請求された側が争ったとしても功を奏することはまずないということがいえると思います。
むしろやみくもに争って離婚するまでの期間が伸びてしまうと、年金分割の対象期間が増えて、自分で自分の首を絞めるということにもなりかねません。
そのため、現在の実務においては年金分割が争いになるということは極めてまれになってきているといえます。
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