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離婚・男女問題
【離婚】年金分割をしないという合意は有効か?
1.はじめに
前回の記事で、「当事者間に債権債務がないことを確認する」という取り決め(清算条項)をした後でも、年金分割はできるということを理由もあわせて説明しました。
では、そもそも年金分割はしないという取り決めをした場合はどうでしょうか。
今回は、このような年金分割をしないという合意の有効性について解説したいと思います。
2.合意の有効性
年金分割をしないという合意の有効性が問題となった裁判例(静岡家裁浜松支部平成20年6月16日審判)があります。
【事案の概要】
ある夫婦が離婚をする際に、妻が年金分割をしてほしいと言ったところ、夫がだめだと言ってこれを拒否しました。
そのため、離婚協議書に「平成19年×月より支給される共済年金は、全額夫が受け取るものとする。年金分割制度による妻の取り分は、これを全て放棄する。」との記載をして、両者は離婚をしました。
離婚後、妻は家庭裁判所に年金分割の申立てを行いました。
そこで、上記の離婚協議書の合意内容の有効性が争点となりました。
【判旨】
※下線は当事務所によるもの
離婚当事者は,協議により按分割合について合意することができるのであるから,協議により分割をしないと合意することができるところ,本件においては,申立人と相手方との間には,離婚協議書による離婚時年金分割制度を利用しない旨の合意がある。このような合意は,それが公序良俗に反するなどの特別の事情がない限り,有効であると解される。上記認定したとおり,当該離婚協議書は,申立人と相手方が話し合った上で,申立人が数日の熟慮期間をおいて下書きをしたことに基づいて作成されたものであり,そして,その作成時には,申立人と相手方との間に何らのトラブルもなかったのであるから,この合意を無効とする事情は存しないといわざるを得ない。
なお,申立人は,平成16年の覚書について主張しているが,同覚書は,離婚時年金分割制度が施行される前のものであること,離婚協議書においても「財形年金の受け取り分は,Xが半額を受け取るものとする。」と規定されており,覚書の年金についての配慮がなされていることを併せ勘案すると,平成16年の覚書を離婚時年金分割制度における合意と認めることはできない。
➢年金分割をしないとの合意は公序良俗に反するなどの特別の事情がない限り、有効であるとの判断が示され、妻の年金分割の申立ては却下されました。
この裁判例から分かるように、年金分割をしないという合意も基本的には有効だと考えられています。
上記事例の妻は、夫から年金分割をするのが嫌だと言われたことから、年金分割をしないという内容の離婚協議書にサインしてしまったようですが、安易に離婚協議書にサインするのではなく、法的手続を行ってさえいれば、このような事態は防げたと考えられます。
これまでも何度か書いていますが、年金分割は法的手続をとりさえすれば、仮に相手方配偶者が年金分割に応じたくないと言ったとしても、ほぼ間違いなく認められることになります。
そのため、年金分割したくないと言われても、安易に譲歩するのではなく、弁護士にご相談いただければと思います。
3.3号分割もできない?
ちなみに、年金分割をしないという合意をしていたとすると、3号分割もできないのでしょうか。
この点については「3号分割は、被扶養配偶者から厚生労働大臣に年金分割請求をすれば、当然に2分の1の割合で分割され、当事者の合意や審判又は調停を要しません。したがって、3号分割については、「年金分割をしない」という合意や、「年金分割事件の申立てをしない」という合意をしても、年金分割請求権の行使を誓約することはできません。」とされています(秋武憲一『離婚調停〔第4版〕』425頁)。
3号分割は、なんせ年金分割を求める側が一方的に手続できてしまうものなので、年金分割をしないという合意をしていたとしても問答無用で手続ができてしまうということですね。
そもそも3号分割って何?という方はコチラの記事をご覧ください。
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