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相続

【大阪の相続弁護士が教える】相続人所有の建物の底地(被相続人名義)を当該相続人が取得する場合の土地の評価額

2024.09.24

1.借地権負担付の土地評価の基本的な方法

一般的に、借地権の設定されている土地の価格を評価するに当たっては、更地価格から借地権価格を控除する方法がとられます(『三訂版 遺産分割の理論と審理』新日本法規410頁)。

 

つまり、更地価格1億円の土地があり、その土地の借地権割合が60%という事例であれば、その土地の評価額は4000万円ということになります。

(計算式)
更地価格1億円-借地権価格(1億円×60%)=4000万円

 

 

2.借地権者(建物所有者)が借地権負担付の土地を取得する場合

以上を踏まえて、このような例を考えてみたいと思います。

 

土地(更地価格1億円、借地権割合60%)が被相続人の所有で、建物が相続人の一人の所有となっているケースがあったとします。

 

このケースにおいて、被相続人と建物所有者との間で賃貸借契約が締結され、建物所有者が相応の地代を支払っている場合などには、被相続人の所有する土地は借地権の負担が付いた土地ということになります。

 

では、遺産分割において、借地権者(建物の所有者)が被相続人名義の土地を取得するとなった場合、その土地の評価額は前記1のとおり4000万円となるのでしょうか。

 

この点に関しては、次のような説明をする文献があります。

 

借地権者が底地を買い取る場合、底地は収益不動産ではなく自用不動産として完全所有権を回復し、底地と借地の併合の利益が生ずるので、併合後は更地価格と等しくなる(中略)。
(『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版212-213頁)

 

 

遺産土地の評価は借地権や使用借権により制限された不動産としての評価をすることになるため、遺産土地に対する借地権や使用借権に基づき同土地上に建物を所有する相続人が同土地を遺産分割により単独で取得するときには、その相続人は、更地として評価される土地を取得したのと異ならない計算結果となる。したがって、(中略)更地として評価した上、その価額によって、借地権や使用借権を有する相続人で単独取得させる方法を採用することも、相当であると考えられる。
(『三訂版 遺産分割の理論と審理』新日本法規290頁)

 

この説明を前提とすると、借地権者(建物の所有者)が被相続人名義の土地を取得する場合、当該土地の評価額は更地価格(前記例であれば1億円)ということになります。

 

このような考え方は、その土地に負担をかけている相続人が、その土地を取得することで負担がなくなるときは、その負担は考慮しないというもので、「自用地論」といわれています。

 

一方で、これとは異なる考え方もあります。

 

1億円の更地価格の土地に対する借地権価格は6000万円となる。そこで、更地価格1億円-借地権価格6000万円で、底地価格は4000万円と評価されることになる。(中略)この価格は、「底地を取得することで完全な所有権を事実上取得できる場合」、例えば、取得者が借地人や借地人の親族の場合、あるいは土地を一体開発するデベロッパーのような場合の「限定価格」である。
(『弁護士のための遺産相続実務のポイント』日本加除出版96-97頁)

 

この記載からすると、借地権者(建物所有者)が被相続人名義の土地を取得する場合、当該土地の評価額は限定価格(特定の取引環境のもとでのみ成立する不動産価格。前記例であれば4000万円)となります。

 

そうすると、更地価格で評価する前者の考え方と後者の考え方で大幅に金額に差が出ることになるようにも思えます。

 

ただ、後者の考え方は、土地の評価額は借地権価格を控除した額としつつ、借地権者である相続人が得た借地権は特別受益の問題とすることで調整を図ることになります。

 

ここで、一つの文献の記載を見てみたいと思います。

 

相続人が、被相続人の土地上に建物を建築する際に、被相続人の土地に借地権を設定した場合、「借地権の設定により当該相続人は借地権相当額の利益を得ながらその対価を支払っていない一方、被相続人の財産はその分減少するので、贈与と同視することができ、借地権相当額の特別受益に該当する」が、他方、「借地権取得の対価すなわち世間相場の権利金を支払っている場合は、贈与と同視できないので特別受益に該当しないことになる」(中略)し、持戻免除の意思表示が認められる場合もあると解される。
(『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版252-253頁)

 

すなわち、この考え方は、上記の例でいうと、土地の評価額は4000万円としつつ、借地権相当額(6000万円)は特別受益の問題とするわけです。

 

仮に、借地権者(建物所有者)が世間相場の権利金を支払っていない場合には、結局6000万円が持ち戻されることになり、前述の自用地論と同じ金額となります。

 

ここで、一つの例を出して考えてみたいと思います。

 

被相続人の遺産は借地権負担付の土地(更地価格1億円、借地権割合60%)と預金5000万円があり、相続人は子であるAとBがいて(法定相続分は各2分の1)、当該土地には相続人A所有の建物が建っているという事案があったとします。なお、Aは被相続人に対して権利金を一切支払っていないとします。

 

自用地論で考えた場合、遺産総額は1億5000万円となり、Aが土地を取得するのであれば、Bが預金全額(5000万円)を取得し、さらにAがBに対して2500万円を支払うことになります。

 

一方で、特別受益の問題とする場合、結局、借地権相当額6000万円が持ち戻されるため、みなし相続財産は1億5000万円となります。

 

その結果、Aの具体的相続分は1500万円(1億5000万円×1/2‐6000万円)、Bの具体的相続分は7500万円(1億5000万円×1/2)となり、結局自用地論と同じく、Bが預金を全額取得し、AがBに対して2500万円を支払うことになります。

 

したがって、自用地論であっても、特別受益の問題とする考え方であっても、特別受益の持ち戻しがされる事案であれば、基本的には同じ帰結になると考えられます。

 

一方で、仮にAが世間相場の権利金を支払っている事案であれば、特別受益の問題とする考え方の場合、借地権相当額6000万円の持ち戻しはされないため、遺産総額は9000万円(土地4000万円+預金5000万円)となります。

 

そして、A、Bの具体的相続分は各4500万円となり、Aが土地と預金500万円を取得し、Bが預金4500万円を取得するという結論になります。

 

この事案において、自用地論を貫徹すると、Aが世間相場の権利金を支払っていたとしても、AはBに対して2500万円を支払わなければならなくなると考えられます。

 

しかし、Aは被相続人に対して世間相場の権利金という対価を支払って、借地権を得ているにもかかわらず、遺産分割において当該土地の評価額を更地価格で評価すると、上記対価(権利金)支払いの事実が一切考慮されず、一律更地価格となり、妥当な結論とならないおそれがあります。

 

そこで、現在の家裁実務では、具体的事情に応じた柔軟な解決ができることから、おおむね特別受益の問題とする考え方で運営されているといわれています((『弁護士のための遺産相続実務のポイント』日本加除出版87-88頁)。

 

 

3.権利金の支払いはないが地代の支払をしていた場合はどうか

前述のとおり、特別受益の問題とする考え方においては、借地権者(建物所有者)が世間相場の権利金を支払っている場合には、借地権相当額は特別受益とならず、持ち戻すことはないと考えられています。

 

では、権利金は支払っていないものの、地代の支払いは継続していたという事案であれば、どうでしょうか。

 

この点に関して、遺留分の事件ではありますが、次のような裁判例(東京地判令和3年11月12日)があります。

 

(借地権の設定に当たって,亡Aと被告との間で権利金等の名目でまとまった金員の授受はされなかったという事案)
亡Aと被告は,本件借地権の設定に際し,賃料を月額16万円と定め,その後,少なくとも平成7年ころまで,亡Aに上記賃料の支払いを行っていたと認められる。これに照らせば,亡Aが無償で被告のために本件借地権を設定したとはいえず,被告が亡Aから本件借地権を贈与されたとは認められない。
原告らは,権利金等の名目での金銭の授受がないことをもって,本件借地権が無償で設定されたなどと主張するが,そうした金銭の授受がないことをもって地代の定めがある借地権について無償で設定されたということはできない。よって,原告らの上記主張は採用できない。

 

すなわち、この裁判例は、権利金の支払いはないものの、地代の支払いがあることをもって、借地権の贈与(特別受益)があったとはいえないとしています。

 

一方で、同じく遺留分の事件において次のような裁判例(東京地判平成30年5月10日)があります。

 

この事案では、被告は、「原告の賃借権の取得が認められたとしても,原告は,その対価として権利金を負担することもなく賃借権の設定を受けたことになるから,特別受益として借地権価額相当の生前贈与を受けたものと同視することができる。」と主張しました。

 

これに対して原告は、「原告は,亡Aの間で,これに関する賃貸借契約書を取り交わしていないが,亡Aから,上記分筆の際にその地代として,本件土地(1)に係る固定資産税のみならず,亡Aの居住する本件建物及び本件土地(2)に係る固定資産税についても負担をするよう求められたところ,原告においては従前から上記稽古場の利用料として,これらの固定資産税の支払をしていたが,旧建物の解体に伴い,その利用料を支払う必要がなくなったにもかかわらず,亡Aの上記要求により,それ以降は,本件土地(1)の地代として,これらの固定資産税の支払を継続していたのである。(中略)以上によれば,原告と亡Aとの間には,平成6年4月以降,本件土地(1)を目的物として,亡Aの所有する不動産に係る固定資産税相当額を賃料とする賃貸借契約が成立していたということができる。(中略)原告は,平成元年5月にBが死亡して以降,家族と共に,毎日欠かさず食事を亡Aの自宅まで届けていたほか,亡Aの光熱費などの生活費の多くを原告が負担するなどしていたのである。このように原告が長年にわたり亡Aに対する経済的な負担をしてきたことにより,本件土地(1)に係る賃借権設定の対価は支払われていたとみることができるから,特別受益としての生前贈与には当たらないというべきである。」と反論しました。

 

この点に関する裁判所の判断は次のとおりです。

 

確かに,原告において亡Aの所有する不動産に係る固定資産税の支払をしていたことが認められる。しかし,これらの支払は,その引き落としがされていた原告名義の預金通帳の記載(甲9)及び領収証等(甲10)によると,当該分割支払の全額が分かる時期でみても,概ね年額15万円ないし20万円程度で推移していたものと認められるところ,かかる負担額は,後記説示に係る本件土地(1)の評価額に照らし,その地代としては著しく低廉なものと認められ,直ちに本件土地(1)の使用の対価としての性質を有するものとは認め難い。実際,前記認定事実によれば,原告においては,原告建物の敷地として本件土地(1)が分筆される以前から,亡Bの書道家の地位を継いで旧建物の稽古場で書道教室を運営していた関係で,亡Bが生前負担をしていたこれらの固定資産税の支払をしていたものであり,旧建物が取り壊された後も,原告は,本件土地(1)上に建築した原告建物に稽古場を設けて引き続き書道教室を運営しながら,これらの支払を継続していたにすぎず,客観的にも,その前後でその支払の額や方法に違いはみられないのである。これらによると,原告において亡Aの所有する不動産に係る固定資産税の支払をしていたのは,亡Aとの親子の情宜に基づき,上記のような態様により本件土地(1)を無償で利用することについての費用負担及び謝礼の範囲内のものとみられるのであり,これらが本件土地(1)の地代の趣旨で支払われたものとは認め難いのである。この点,原告は,その本人尋問において,亡Aから本件土地(1)の地代としてこれらの固定資産税の支払をするよう要請されていた旨の上記主張に沿う供述をするが,他方で,亡Aの相続税の申告の際に,当該賃借権の存在を認識しながら,これを前提とした申告をしなかったことについて曖昧な供述に終始するなど,その供述内容は直ちに採用できるものではない。(中略)
(1) 仮に,本件土地(1)について,原告の賃借権の取得が認められるとしても,後記説示に係る評価額に照らすと,その借地権価額は多額に上るものであり,共同相続人間の実質的衡平の観点から,原告において,その対価として権利金を負担することもなく,当該賃借権の設定を受けたことは,借地権価額相当の生前贈与を受けたのと同視して特別受益に当たるものと解するのが相当である。
(2) これに対し,原告は,平成元年5月に亡Bが死亡して以降,原告の家族と共に,毎日欠かさず食事を亡Aの自宅まで届けていたほか,亡Aの光熱費などの生活費の多くを原告が負担するなどしていたのであり,こうした長年にわたる経済的な負担をもって,本件土地(1)について,借地権価額相当の支払がされていたとみることができるから,原告において賃借権の設定を受けたことは,特別受益としての生前贈与に当たるということはできないのであり,仮にこれに当たるとしても,亡Aが原告を隣地に居住させたのは高齢となった自身の面倒をみてほしいという希望があったからであり,実際に,原告は,亡Aのこうした意向に従って上記のとおり面倒をみてきたのであるから,亡Aにおいて持戻免除の意思表示があったと主張する。
(3) しかし,原告は,その本人尋問において,これに沿う供述をしているが,証拠(乙9~12,被告本人)によれば,実際には,亡Aは,被告と再婚する前から,隔月毎に約30万円の年金を受給しながら,自ら光熱費等の生活費を支出するなど,経済的に自立した生活を送っていたものとうかがわれ,原告の上記供述は額面どおり採用できるものではなく,他に,原告において,亡Aに対して通常の扶養義務の範囲を超えるほどの援助をしたと認めるに足りる確たる証拠もない。これらによると,原告において上記賃借権の設定を受けたことが特別受益に当たることを否定することはできず,本件遺言の内容も踏まえると,亡Aにおいて黙示にも持戻免除の意思表示があったと認めることはできない。
(4) 以上によれば,原告の上記各主張は採用することはできず,仮に,原告が本件土地(1)について賃借権を取得していたとしても,その借地権価額が特別受益として基礎財産に加算されるというべきである。

 

この裁判例を前提とすると、権利金の支払いはないものの、地代が支払われていたとしても、その地代が土地の評価額に比して、その地代としては低廉なものと認められるなどの場合には、借地権相当額が特別受益に当たると判断される可能性があるといえそうです。

 

 

4.まとめ

以上見てきたとおり、被相続人の所有する土地に借地権の負担が付いている事案において、相続人の一人である借地権者(建物所有者)が当該土地を取得する場合、①その土地の評価額は更地価格とする考え方と②土地の評価額は、更地価格から借地権価格を控除した額としつつ、借地権相当額は特別受益の問題とする考え方があります。

 

現在の家裁実務では、②が主流とされていますが、借地権相当額が特別受益となるか否か(あるいは持戻免除の意思表示があったと認められるか否か)は、借地権者(建物所有者)が借地権を取得する対価(世間相場の権利金や相応の地代など)を支払っているか否かによると考えられます。

 

今回は、被相続人名義の土地に借地権の負担がある事案を想定して説明を行いましたが、次回は被相続人名義の土地を相続人が無償で使用している事案(使用貸借の事案)について解説してみたいと思います。

 

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