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【大阪の相続弁護士が教える】相続人が無償で使用している被相続人名義の土地を取得する場合の当該土地の評価額
1.はじめに
前回は、相続人と被相続人との間に土地の賃貸借契約が成立している事案、つまり被相続人名義の土地に賃借権の負担が付いている事案において、当該相続人が土地を取得する場合の土地の評価額について解説しました。
今回は、相続人と被相続人との間に土地の賃貸借契約は成立しておらず、あくまで無償で使用することができる合意つまり使用貸借契約が成立している事案において、当該相続人が土地を取得する場合の土地の評価額について解説してみることとします。
たとえば、被相続人名義の土地に相続人の一人が建物を建て、その建物に無償で居住しているような場合がこれに当たります。
このような場合、土地には使用借権の負担が付いているということになります。
2.使用借権負担付の土地評価の基本的な方法
使用借権は賃借権と異なり、第三者に対抗することはできませんが、使用借権とはいえ、土地の上に土地所有者以外の人の名義の建物が建っている場合、その土地は事実上売却が困難となります。
そのため、その土地の評価額は更地価格よりは1~3割程度減価されるといわれています(『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版256頁)。
具体的には木造などの非堅固な建物が建っている場合は1割減とし、鉄筋コンクリート造など堅固な建物が建っている場合には2割減、事情によっては3割減とすると説明されています((『弁護士のための遺産相続実務のポイント』日本加除出版96-80頁)
したがって、被相続人名義の土地(更地価格5000万円)の上に、相続人名義の木造建物(非堅固な建物)が建っており、その相続人は無償で土地を使用していたという事案であれば、その土地の評価額は4500万円になるということです。
(計算式)
更地価格5000万円-使用借権減価(5000万円×10%)=4500万円
3.使用借権者(建物所有者)が使用借権負担付の土地を取得する場合
上記の例で、建物所有者である相続人が底地を取得する場合、その土地の評価額は4500万円とすることになるのでしょうか。
この点に関しては、前回の記事で解説した借地権負担付の土地の取得の場合と同じように考えます。
すなわち、①その土地の評価額は更地価格とする考え方と②土地の評価額は、使用借権減価をした額としつつ、使用借権評価額相当の利益を無償使用してきた相続人の特別受益の問題とする考え方があります(詳細は前回の記事を参照ください)。
①の考え方による場合は、上記例の土地の評価額は5000万円となるのに対し、②の考え方による場合は、土地の評価額は4500万円としつつ、使用借権評価額相当の500万円は特別受益の問題とすることになります。
家裁実務においては、前回解説したとおり、②が主流になっているといわれています。
②の考え方による場合は、遺産である土地に建物を建て、その土地を無償で使用している相続人は、使用借権の設定を受けたことにより、土地使用借権の生前贈与があったものとして、土地使用借権相当額について特別受益を受けたと考え、あとは被相続人の持戻し免除の意思表示の有無を検討することになります。
上記例であれば、仮に被相続人による持戻し免除の意思表示があったとはいえない場合には、特別受益である500万円は持ち戻されることになるため、結局土地の評価額は更地価格である5000万円と同じ結果となります。
4.建物所有者たる相続人が被相続人を扶養等していた場合はどうか
被相続人所有の土地に、相続人の一人が建物を建て、無償で土地を使用させてもらっている反面、その相続人が被相続人の介護をしたり、扶養をしたりしてきたという場合はどのように考えるのでしょうか。
この点については、次のように考えられています。
被相続人に一緒に住んでくれと言われてその土地上に相続人が建物を建てたが、他方、被相続人を扶養するという負担を負っていた場合には、扶養の負担と土地使用の利益とは実質的に相当の対価関係に立つから、特別受益はないと考えられる。仮に、特別受益に当たるとしても、黙示の持戻し免除があるとして、使用借権減価をするのが相当である。この場合、土地使用の利益と対価関係に立つ扶養については、寄与分の主張はできないものと解される。
(『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版259頁)
したがって、上記例において、建物所有者である相続人が被相続人の扶養をするという負担を負っていた場合には、その相続人が土地を取得するに当たっては、その評価額を4500万円と評価することになります。
つまり、何の負担もなく無償で土地を使用できていた相続人が土地を取得する場合と扶養等の負担を負ってきた相続人が土地を取得する場合とで、土地の評価額に差をつけることで妥当な解決を図ろうというわけです。