ご予約はこちら
BLOG

交通事故

【交通事故】平均余命の2分の1の端数は四捨五入?切り捨て?【逸失利益】

2025.01.20

逸失利益の計算において、症状固定時の年齢が67歳を越える場合には、原則として簡易生命表の平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とします。

 

では、平均余命の2分の1に小数点以下の端数が生じた場合、これは四捨五入なのでしょうか、それとも切り捨てなのでしょうか。

 

例えば、令和4年版簡易生命表によると、70歳男性の平均余命は15.56年となっていますが、これを2分の1すると、7.78という数字が出てきます。

 

では、労働能力喪失期間は四捨五入して8年なのか、それとも端数を切り捨てて7年なのか、いずれが妥当なのでしょうか。

 

近時の裁判例をいくつか見てみることにしたいと思います。

 

【大阪地判令和5年4月18日】

(平均余命は18.78年という事案)

Aは死亡時66歳であったから、就労可能年数については平均余命の2分の1である9年とすべきであり、9年間に相当するライプニッツ係数は7.108(小数点第4位は四捨五入)となる。

⇒18.78年の2分の1は9.39であるところ、小数点以下を切り捨てた。

 

【名古屋地判令和4年5月27日】

(平均余命は5年という事案)

ウ 労働能力喪失期間

平均余命の2分の1に当たる2.5年(ライプニッツ係数2.291。計算式:1.859+(2.723-1.859)×1/2≒2.291)

⇒5年の2分の1は2.5であるところ、そのまま2.5という数字を採用した。

 

【鹿児島地鹿屋支判令和4年2月7日】

(平均余命は19.46年という事案)

前記のとおり,亡Aは本件事故による後遺障害によって就労することができなくなったと認められるところ,亡Aは症状固定時65歳であり,その逸失利益は,労働能力喪失期間を平均余命の2分の1として,平成27年の簡易生命表〈男〉を参照し,10年間(ライプニッツ係数7.7217)として算出するのが相当である。

⇒19.46年の2分の1は9.73年であるところ、小数点以下を四捨五入して10年とした。

 

 【東京地判令和 3年7月8日】

(平均余命は20.35年という事案)

前記認定の原告の後遺障害の内容及び程度に照らすと,労働能力喪失率は14%,労働能力喪失期間は平均余命期間の2分の1である10年(対応するライプニッツ係数は7.7217)と認めるのが相当である。

⇒20.35年の2分の1は10.175年であるところ、小数点以下は切り捨てた。

 

【東京地判令和2年7月10日】

(平均余命は25.33年という事案)

原告X1は症状固定時の平均余命の2分の1(平成29年の簡易生命表【女】64歳の平均余命は25.33年)である12年間(対応ライプニッツ係数8.8633)の労働能力を喪失したと認める。

⇒25.33年の2分の1は12.665年であるが、小数点以下を切り捨てた(原告は13年と主張していた)。

 

【京都地判令和2年2月19日】

(平均余命は21.73年という事案)

Bの年齢における平均余命は21.73年とされているから(平成28年簡易生命表),家事労働者としての就労可能年数はその約2分の1に当たる11年間と認める(対応するライプニッツ係数は8.3064)。

⇒21.73年の2分の1は10.865年であるところ、小数点以下を四捨五入した。

 

【東京地判令和元年11月6日】

(平均余命は26.23年という事案)

亡Bの基礎収入は家事労働を前提に平成29年の60歳から64歳の女性の平均賃金325万0800円とし,平均余命26.23年の2分の1である13年(端数切捨て)にわたり就労可能であり(これに対応するライプニッツ係数は9.3936),生活費控除率は0.3とするのが相当である。

⇒26.23年の2分の1は13.115年であるところ、小数点以下を切り捨てた。

 

【名古屋地判令和元年9月25日】

(平均余命は14.19年という事案)

本件事故当時,亡Cは,72歳であったから,平成28年当時の平均余命は14年であった。したがって,逸失利益の喪失期間は,年金関係につき14年間,介護関係につき7年間と認めるのが相当である。

⇒14.19年の2分の1は7.095年であるところ、小数点以下を切り捨てた。

 

【大阪地判平成31年3月19日】

(平均余命は28.83年という事案)

家事労働に従事していたAの基礎収入を上記(3)の313万8400円とし,就労可能期間を平均余命の2分の1である14年(ライプニッツ係数9.8986)とし,生活費控除率は,女性の年齢別平均賃金を基礎収入としていること等に鑑み,30パーセントとするのが相当である。

⇒28.83年の2分の1は14.415年であるところ、小数点以下を切り捨てた。

 

 

【神戸地判平成31年1月16日】

(平均余命は35.72年という事案)

労働能力喪失期間は,症状固定時,原告が52歳であったことから,平均余命である35.72年(平成24年女性簡易生命表)の2分の1である17年(小数点以下切り捨て。対応するライプニッツ係数は11.2741)と認めるのが相当である。

⇒35.72年の2分の1は17.86年であるが、小数点以下を切り捨てた(原告は18年と主張していた)。

 

【京都地判平成30年9月14日】

(平均余命は26.51年という事案)

本件事故による死亡時から平均余命までの約26.51年間(平成24年簡易生命表)の約2分の1である13年間(75歳まで。対応するライプニッツ係数は9.3936である。)は就労する蓋然性があった。

⇒26.51年の2分の1は13.255年であるところ、小数点以下を切り捨てた。

 

【福島地判平成30年9月11日】

(平均余命は13.21年という事案)

平均余命が13.21年であること(平成26年簡易生命表・女・78歳)から,労働能力喪失期間としては平均余命の2分の1である6年とする。

⇒13.21年の2分の1は6.605年であるが、小数点以下を切り捨てた(ただし、原告自身、7年ではなく6年と主張したいたようである)。

 

【東京地判平成30年7月5日】

(平均余命は11.79年という事案)

亡Cは家事従事者であり,家事労働分の逸失利益については,平成28年賃金センサス学歴計・女・70歳以上の平均年収301万4800円を基礎収入とし,生活費控除率を4割として,平均余命11年の約2分の1に相当する5年(対応するライプニッツ係数は4.3294である。)にわたり就労可能であったものとして算定するのが相当である。

⇒11.79年の2分の1は5.895年であるが、小数点以下を切り捨てた(原告は6年と主張していた)。

 

 

以上、複数の裁判例を見てきましたが、四捨五入している事例もあれば、四捨五入すれば切り上げるはずであるところ、そうはせずに切り捨てている事例もあることが分かります(一方で、四捨五入すれば切り捨てるはずであるところを切り上げている事例は、上記裁判例の中にはありませんでした)。