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離婚・男女問題
【離婚】有責配偶者からの離婚請求~婚姻関係が破綻していた場合はどうなる?~
1.はじめに
有責配偶者から離婚請求がされたケースにおいて、話し合いで解決できず、訴訟における判決にまで至った場合には原則としてその請求は認められません。
そして、有責配偶者からの離婚請求が例外的に認められるための要件については、これまでご説明してきたとおりです。
では、婚姻関係が破綻していた場合はどうでしょうか?
たとえば、ある夫婦が別居して5年が経った頃に、夫が特定の女性と不貞行為に及んだとします。
この場合も夫の離婚請求は有配偶者からの離婚請求として原則として認められないということになるのでしょうか?
今回は有責配偶者からの離婚請求と婚姻関係の破綻というテーマで解説をしてみたいと思います。
2.婚姻関係破綻の場合の解説
有責配偶者からの離婚請求は原則として認められないとされていますが、婚姻関係が破綻した後に有責行為があった場合には離婚請求は認められるとされています。
最高裁昭和46年5月21日判決は次のように判示しています。
※下線は当事務所によるもの
原審が適法に確定した事実によれば、被上告人は、上告人A子との間の婚姻関係が完全に破綻した後において、訴外B子と同棲し、夫婦同様の生活を送り、その間に一児をもうけたというのである。右事実関係のもとにおいては、その同棲は、被上告人と右上告人との間の婚姻関係を破綻させる原因となつたものではないから、これをもつて本訴離婚請求を排斥すべき理由とすることはできない。
昭和46年最高裁判例解説には、この判例に関して次のような説明がされています。
有責配偶者からの離婚請求は許されないとする法理は、当該有責行為と婚姻破綻との間に因果関係の存在を要件としていると考えられる。したがって、右の間に因果関係が存在しない場合には、離婚請求拒否の理由とはならないといえよう。本判決は、有責配偶者からの離婚請求は許されないという法理を、いわば裏側から鮮明にしたものである。
本判決の事案は、婚姻関係が完全に破綻した後において、夫が妻以外の女性と同棲した場合であり、夫婦不和の原因が右同棲にないだけでなく、婚姻関係を復元の見込みがない状態に立ち至らせるについても、右同棲が原因を与えたものでないことを注意しなければなるまい。夫婦不和の原因が同棲になくても、婚姻関係が復元の見込みのない状態になった主たる原因が同棲にあるときは、やはり、有責行為と破綻との間に因果関係があるものとして、離婚請求排斥の事由となると解すべきであろう。(昭和46年最判解説94-95頁)
このように、婚姻関係破綻後であれば、有責行為と婚姻関係破綻との間に因果関係がないことから、有責行為があったことは離婚請求を排斥する理由にはならないと考えられるということになります。
3.婚姻関係破綻が認められるのはどんな場合?
では、実際に婚姻関係の破綻が認められたケースを見てみましょう。
【東京地裁平成15年7月4日判決】
(2) 原告の有責性の有無
進んで、原告と被告との婚姻関係が破綻するに至った原因が原告のFとの不貞行為にあったか否かについて判断する。
ア 被告の負債による原告の経済的負担について
上記認定のとおり、被告は、婚姻当時相当額の預金を持っており、それなりの資産があったと推測されるにもかかわらず、平成4年以降は預金残高が急激に減少し、また、平成6年と平成10年には台湾に所有していた不動産を売却してその代金を取得したことに照らすと、被告は、平成4年以降に何らかの理由で多額の金銭を必要とするようになったと推認される。他方、本件全証拠を精査しても、原告と被告との結婚生活において、平成4年以降にそのような多額の出費を必要とする事情が生じたとは認められない。
そうすると、平成8年から平成9年にかけて原告名義でされた消費者金融会社との間の複数の金銭消費貸借契約及びそれに基づく合計200万円を超えると認められる借入れ並びに平成11年以降被告及びCが消費者金融会社やいわゆる高利貸から原告を保証人とするなどして借り入れた金員については、被告が自己の目的のために使用したものと認めることが自然である。
原告は、これらの借入れの返済をしているが、それは、被告が結婚生活当初は生活費を提供していたこと、親の反対を押し切って結婚したことから、自分がなんとかしなければならないと考えたこと、自己の勤務先にまでたびたび債権者からの請求がくるようになったので、同僚等の手前穏便な処理をしなければならないと考えたことによるものであって、原告は、借入金の使途については全く了知していないのである(原告本人)から、被告は、原告に無断で、これら原告の名義での借入れ等を行ったものであり、原告は、自身にとっては無関係な借入れの返済を長年にわたって続けてきていると認められる。
イ 原告と被告との確執について
(ア) 上記認定のとおり、原告とFとの交際は、平成12年5月から始まったと認められる。
被告は、平成11年8月ころ、原告の会社の上司や同僚らから原告が不貞をしている旨の電話を受け、同年9月には不貞の現場を撮影した写真の送付を受けたから、原告とFとは、同年8月ころには不貞関係になったと主張するが、これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。また、被告の主張によれば、原告とFとの不貞の現場を撮影したものとして送付された複数の写真は別居の際に原告が持ち出したため手元にないということであるが、配偶者の不貞行為を明らかにする重要な証拠をその配偶者が容易に持ち出せる場所に保管していたということは極めて不自然であって、ひいては、そのような写真の存在自体を疑わしめるものといわざるを得ない。
以上を総合すれば、平成11年8月ころから原告とFとの不貞関係が始まったとの被告の主張は認めるに足りないというべきであり、原告が供述するとおり、平成12年5月に原告とFとの交際が始まったと認定することが合理的である。
(イ) また、上記認定のとおり、被告は、特段の根拠もないままに原告が不貞行為をしているのではないかと疑い、平成11年8月ころから原告を執拗に追及するようになり、そのため、以後夫婦間のいさかいが絶えなくなったことが認められる。
これに対し、被告は、被告が原告に対して不倫はしないでほしい旨懇願したところ、原告は態度を急変させて被告に対して暴力を振るうようになったもので、被告は執拗な追及をしていない旨主張する。確かに、原告作成の平成12年1月1日付け誓約書(乙8)には、原告が被告に対して暴力を振るわない旨及び暴力を振るった場合には速やかに離婚すると共に被告に慰謝料3億円を支払う旨を誓約していることが認められる。しかしながら、原告本人尋問の結果によれば、この誓約書は、被告が原告に対して判を押さないと寝かさないとの態度をとったことから、原告が半ば面倒になり、内容は真実ではなかったけれども、同日深夜、原告不知の第三者が文面を記載したものに原告が署名、押印したことによって作成されたとの経緯が認められるところ、後記のとおり、被告による原告に対する追及は相当程度執拗かつ激烈であったと推認されること及び会社員である原告が離婚慰謝料として3億円を支払うという極めて非現実的な内容の約束をしていることからして、原告の供述は信用できると考えられ、したがって、この誓約書が存在することをもって原告が被告に対して平成11年8月以降暴力を振るっていたとの事実を認定することはできず、他にそれを裏付けるに足りる証拠はない。
そして、証拠(甲4、6、7、乙13)及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告とが平成12年8月6日に別居した後、被告が原告やその両親及び原告の勤務先に対して執拗に電話、FAX送信等により面会の強要等をしたことから、原告は、被告を債務者として、平成13年、当庁に対し架電禁止等の仮処分を申し立て(当庁平成13年(ヨ)第1256号)、この申立てについては同年5月7日に和解で終了したものの、被告の行状が改まらなかったため、原告は、平成14年、当庁に再度同様の仮処分を申し立て(当庁平成14年(ヨ)第610号)、この申立てが認められて同年3月29日には被告に対する架電禁止等の仮処分命令が発令されていること、平成12年10月13日、被告は、原告勤務先の玄関において、Fと間違えた他の女性の髪を引っ張り、飲料水の入った缶を頭部に投げつけるなどして傷害を負わせたことにより港北警察署に逮捕され、略式起訴となり、罰金10万円の刑に処せられたことが認められ、加えて、前記認定のとおり、特段の根拠がないにもかかわらず、被告において原告が不貞行為に及んでいると信じ込んでいたことを併せ考えると、被告は、原告に対して極めて強固な執着心を有していたと合理的に推認できるから、平成11年8月以降の被告の原告に対する追及は、非常に執拗かつ激烈なものであり、根拠のないことで連日責め立てられる原告をして、被告との婚姻関係の継続について希望を失わせるに十分なものであったと認められる(なお、被告は、被告こそが無言電話等の被害者であると主張し、被告作成の「Bに対する無言電話及び嫌がらせ電話の日時とその内容」なる書面(乙11)を提出するが、何らの客観的裏付けのないものであって、およそ信用するに値しない。)。
ウ 婚姻関係が破綻した時期について
以上のような経緯ないし婚姻生活の状況に照らせば、原告には明らかにされない理由による被告の度重なる多額の借金に基づく支払請求が原告の勤務先にまでくるようになり、原告としてもその返済を余儀なくされていたこと及び根拠のない不貞関係を理由とする被告からの苛烈な追及等のために日常的となった夫婦間の言い争いにより、原告が被告に対する嫌悪感、不信感を募らせ、さらに、平成11年初めから原告の承諾を得ることなく被告がその一存で本件建物に同居させ、以降本件建物において我が物顔に振る舞うCの存在もあいまって、平成12年1月ころには、原告が被告に対する愛情を失ったことは優に推認できるところである。このような原告の心情に加えて、前記認定のとおり、同月以降原告と被告とのいわゆる夫婦関係がなくなったこと、同月ころには連日原告と被告とがいさかいをしていたこと、1年間にわたって本件建物に原告とは何らの血縁関係がない成人男性たるCが同居していたために、原告は自宅の寝室内で段ボール箱をテーブル代わりにして食事をすることを余儀なくされるという異常ともいえる生活を強いられていたことなどの事情を総合的に考慮すれば、平成12年1月当時、原告と被告とは、同居し、同じ寝室で就寝し、また、原告は被告の作った夕食をとっていた(原告本人)とはいうものの、夫婦としての心理的な交流などは全く失われて形骸化し、その婚姻関係は完全に破綻しており、そのころには既に婚姻を継続し難い重大な事由が発生していたと認めることができる。
エ 原告の有責性について
前記認定のとおり、原告とFとは、平成12年5月から交際を開始したものであると認められる。原告とFとの交際は、原告が被告と離婚していない以上、不貞行為に当たるものではあるが、上記認定のとおり、原告と被告との婚姻関係は、被告による多額の借財や根拠のない追及に端を発する口論等による愛情の喪失を主な原因として、原告がFとの交際を始める以前の平成12年1月ころには完全に破綻していたものであるから、原告の不貞行為は、婚姻関係破綻以後にされたものであり、婚姻関係破綻の原因となったものではないというべきである。
よって、原告は、いわゆる有責配偶者には当たらないと認められる。
➢夫である原告から妻である被告への離婚請求訴訟において、夫婦の破綻原因は、被告とその連れ子の成人男性が原告に無断で同人名義の借金をしたり、被告及び連れ子の度重なる多額の借金に原告を無断で保証人にした行為、さらには被告が原告に無断で夫婦同居の建物に原告と何ら血縁関係のない成人男性の連れ子を同居せしめたことなどによるものと認定しました。そして、原告には不貞行為があったものの、婚姻関係破綻後のものであるとして、原告は有責配偶者には当たらないと認定しました。
4.婚姻関係破綻が認められなかったケース
反対に、婚姻関係破綻が認められなかったケースについて見てみたいと思います。
【名古屋高裁平成21年5月28日】
夫は、本件婚姻関係は、妻の言動等を原因として、遅くとも平成一五年八月末までに破綻しており、これに対し自分の不貞行為が始まったのは、同年九月六日以降であるから、本件婚姻関係の破綻と本件不貞行為との間に因果関係はないと主張し、また本件別居にも正当な理由があったかのような主張をしている。そして、《証拠省略》には、上記主張に沿う部分がある。
イ しかしながら、本件婚姻関係が従前から深刻な状況だったことを裏付けるに足りる客観的証拠は存在しない。
前記一(3)のとおり、本件夫婦間には、平成一三、四年頃から夫婦関係がなくなり、平成一四年頃から寝室も別になったとは認められるが、同(3)(5)認定のとおり、その後も本件夫婦は、連れ立って長女の幼稚園の行事等に参加したり、休日には、家族で近郊や京都等に旅行に出掛けたりしており、これらの状況が、平成一五年一〇月から一一月にかけても継続していたのであるから、同年八月当時、本件婚姻関係が、本件不貞行為以外の原因によって、すでに破綻していたと認めることは困難である。
のみならず、上記(1)のとおり、夫の本件不貞行為は、遅くとも平成一五年六月頃には始まっていたと認められる。以上によれば、本件婚姻関係の破綻と本件不貞行為との因果関係を否定することはできず、本件別居に正当な理由があったと認めることもできない。
➢不貞行為が始まった後に夫婦が連れ立って長女の幼稚園の行事等に参加したり、休日に家族で旅行に出かけたりしたことから、婚姻関係の破綻を認めませんでした。
5.まとめ
以上見てきたとおり、婚姻関係が破綻した後であれば、不貞行為などの有責行為があったとしても有責配偶者からの離婚請求とは扱われないということになります。
そのため、有責配偶者からの離婚請求が問題となった場合には、離婚を請求している側(有責行為を行ったとされる側)から「そもそも有責行為はなかった」とか「有責行為はあったけれども、その時点ですでに婚姻関係は破綻していた」という主張がなされることが往々にしてあります。
そして、このような場合には、①そもそも不貞行為などの有責行為があったのかどうか、②有責行為があったとしてその開始時期はいつなのか、③すでに婚姻関係が破綻しているのか否か、④破綻しているとしてその時期はいつなのかなどの点について双方から主張反論が繰り広げられることになります。
有責性が問題となる事案では、当事者の感情対立が激しかったり、双方の言い分が真っ向から対立したりすることも少なくなく、話し合いでは解決せずに訴訟に至るケースもあります。
そのため、とりわけこのような事案においては、協議段階から訴訟の帰趨を見据えておくことも必要になってきます。
不貞などの有責行為が問題となりそうな場合には、できる限り早いタイミングで離婚事件に精通した弁護士にご相談いただければと思います。
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