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離婚・男女問題
【離婚】有責配偶者は婚姻費用を請求することができるか?
1.はじめに
前回の記事で、有責配偶者であっても財産分与(清算的財産分与)を請求することができるということを説明いたしました。
では、同様に有責配偶者は婚姻費用(生活費)を請求することができるのでしょうか?
たとえば、このようなケースを想定してみましょう。
夫A、妻B、子2人という家族構成で、家族4人で大きな問題もなく一緒に暮らしていました。
そのような折、妻Bがある男性と交際を開始し不貞行為に及びました。
夫Aは妻Bの不貞行為の証拠を発見したため、妻Bを問い詰めたところ、妻Bは不貞を認めました。
夫婦で今後のことについて話し合いを重ねた結果、妻Bが子ども2人を連れて別居することになりました。
妻Bは有責配偶者に当たると考えられますが、このような場合に、妻Bは夫Aに対して婚姻費用を請求することができるでしょうか?
2.有責配偶者自身の生活費はどうか?
有責配偶者が婚姻費用の請求をする場合、婚姻費用額のうち有責配偶者の生活費相当額については、信義則又は権利濫用として許されないとされることが多いとされています(『民事裁判実務の重要論点 家事・人事編』31頁)。
つまり、妻Bが有責配偶者の場合、B自身の生活費を請求することは許されないとされることが多いということなります。
これは、夫婦の扶助義務に違反した配偶者が、自らはその義務を怠っておきながら、他方配偶者に対して扶助義務の履行を求めるのは信義則に反するということが理由だと考えられています。
3.子どもの生活費はどうか?
婚姻費用には子どもの生活費も含まれますが、婚姻費用の請求者が有責配偶者である場合には子どもの生活費も請求することができないのでしょうか?
冒頭のケースでいうと、妻Bの生活費だけでなく、子ども2人の生活費も請求することができないのか?という問題です。
この点については、「有責配偶者が子を監護している場合は、婚姻費用分担額のうち養育費相当額については、子が必要とする生活費であるから、有責配偶者による請求であるからといって、その請求が信義則又は権利濫用として許されないとはいえず、義務者はその限度で婚姻費用の分担義務を免れない。」とされています(前著31頁)。
つまり、この監護者(多くの場合は母親)が有責配偶者だとしても子どもの生活費は請求することができるということです。
これは、いくら婚姻費用を請求する者が有責配偶者であったとしても、子どもには責任がないということが理由になると考えられています。
4.裁判例
では、実際に有責配偶者からの婚姻費用請求が問題となった裁判例を見てみましょう。
※下線は当事務所によるもの
【福岡高裁宮崎支部平成17年3月15日決定】
1 争点(1)(相手方の不貞)
本件抗告事件記録により認められる基本的事実によれば、相手方がFと不貞に及んでこれを維持継続したことを有に推認することができる。
2 争点(2)(相手方の婚姻費用分担請求権の存否)
上記によれば、相手方は、Fと不貞に及び、これを維持継続したことにより本件婚姻関係が破綻したものというべきであり、これにつき相手方は、有責配偶者であり、その相手方が婚姻関係が破綻したものとして抗告人に対して離婚訴訟を提起して離婚を求めるということは、一組の男女の永続的な精神的、経済的及び性的な紐帯である婚姻共同生活体が崩壊し、最早、夫婦間の具体的同居協力扶助の義務が喪失したことを自認することに他ならないのであるから、このような相手方から抗告人に対して、婚姻費用の分担を求めることは信義則に照らして許されないものと解するのが相当である。
【東京家裁平成20年7月31日審判】
1 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1) 申立人と相手方は,平成6年×月×日に婚姻した夫婦であり,平成×年×月×日,長女Cが生まれた。
(2) 申立人は,平成19年×月×日,単身家を出て相手方と別居した。
(3) 申立人は,平成20年×月から,住所地の賃貸マンションに居住し,同年5月には,Cが同マンションに転居してきた。Cは,同マンションから○○区内の中学校に通学している。
(4) 申立人は,平成20年×月から正杜員として勤務し,月額17万6000円の基本給と3万円の職能給を得ている(年額247万2000円)。相手方は,会社員として稼働し,平成18年度は351万4400円の給与収入を得ている。
2 申立人は,相手方に対し,婚姻費用として,毎月10万円を支払う旨の審判を求めているところ,相手方は,申立人は不倫をして勝手に出ていって,不倫相手と同居しているのであるから,婚姻費用は支払わないと主張する。
よって検討するに,一件記録によれば,申立人が平成18年×月から勤務していた会社には,同僚としてDがいたこと,申立人は,平成19年×月×日,Dと二人でプリクラを撮影しているが,その中には申立人がDの肩に手を回して抱き合うポーズをとっているものや,口吻を交わしているものがあること,申立人は,平成19年×月×日に家を出た後,同月×日ころから,Dが賃借しているアパートで暮らすようになったこと,申立人は自分の衣類ばかりでなくDの衣類も一緒に洗濯して上記アパートのベランダに干すことをしていたことが認められ,これらによれば,申立人は,遅くとも平成19年×月にはDと不貞関係を結んでいて,別居後はDと暮らしていたものと認められる。
申立人は,プリクラの写真は,Dを含めた会社の仲間4人と飲みに出かけ,罰ゲーム的なものとしてふざけて撮ったものであると供述するが,他の同僚の目の前で異性である同僚と口吻を交わすことなど,罰ゲームとしてでも考えられないことというべく,申立人の上記供述は信用できない。申立人は,相手方の行動が常軌を逸していて困り果てて会社の同僚に相談したところ,Dのアパートに避難する方法を同僚が考えてくれて,Dもこれを快諾し,アパートを出て知人宅に移ってくれたと供述するが,職場の元同僚のために自分のアパートを明け渡して自分は知人宅に泊まることを半年以上にもわたってすることなど考えられないから,不合理な内容であるというほかなく,到底信用できないものである。
以上によれば,別居の原因は主として申立人である妻の不貞行為にあるというべきところ,申立人は別居を強行し別居生活が継続しているのであって,このような場合にあっては,申立人は,自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず,ただ同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるものと解するのが相当である。
【大阪高裁平成28年3月17日決定】
夫婦は,互いに生活保持義務としての婚姻費用分担義務を負う。この義務は,夫婦が別居しあるいは婚姻関係が破綻している場合にも影響を受けるものではないが,別居ないし破綻について専ら又は主として責任がある配偶者の婚姻費用分担請求は,信義則あるいは権利濫用の見地からして,子の生活費に関わる部分(養育費)に限って認められると解するのが相当である。
これを本件についてみるに,上記1(1)で補正の上引用した原審判の認定事実によれば,相手方は,抗告人と別居してF市内に居住していた時期に,抗告人以外の男性と不貞関係にあったことが推認されるが,相手方が平成21年頃から鬱病と診断され,平成23年×月頃から家出して○○を1人で旅行したりするなど,精神的に不安定な状況にあったこと,平成25年には,抗告人は,相手方の上記不貞を知りつつ,相手方と再度同居していることなどの諸事情に照らせば,上記不貞関係があったからといって,直ちに相手方の本件婚姻費用分担請求が信義に反しあるいは権利濫用に当たると評価することはできない。
しかしながら,上記1(2)で補正の上引用した原審判の認定事実によれば,抗告人と相手方が平成25年に再度同居した後,相手方は本件男性講師と不貞関係に及んだと推認するのが相当であり,抗告人と相手方が平成27年×月に別居に至った原因は,主として又は専ら相手方にあるといわざるを得ない。相手方は,上記不貞関係を争うが,相手方と本件男性講師とのソーシャルネットワークサービス上の通信内容(乙4,5)からは,前記のとおり単なる友人あるいは長女の習い事の先生との間の会話とは到底思われないやりとりがなされていることが認められるのであって,これによれば不貞行為は十分推認されるから,相手方の主張は採用できない。そうとすれば,相手方の抗告人に対する婚姻費用分担請求は,信義則あるいは権利濫用の見地から,子らの養育費相当分に限って認められるというべきである。
5.まとめ
以上のとおり、婚姻費用を請求する側が有責配偶者であった場合、有責配偶者自身の生活費部分については婚姻費用の請求が認められないとされることがあります。
もっとも、その有責配偶者が子どもを監護している場合には、子どもには何の責任もありませんので、子どもの生活費については請求することが認められるというのが実務における通常の考え方だといえます。
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