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離婚・男女問題
【離婚】年金分割の前に相手方が死亡してしまったらどうなるか?
1.はじめに
年金分割の合意をしたあとに、年金事務所で請求の手続をしようと思っていた矢先に相手方配偶者(元配偶者)が死亡したというようなことはあり得ないわけではありません。
そこで、今回は年金分割と相手方の死亡というテーマで解説してみたいと思います。
改めて年金分割(合意分割)の流れをおさらいしておきましょう。
①年金事務所にて、年金分割のための情報通知書を取得する。
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②相手方配偶者との間で合意分割の手続を取ることができるのか協議・検討。
→相手方配偶者が手続に協力をしてくれるのであれば、年金事務所での手続や公正証書の作成手続に進む。
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③相手方配偶者の協力が得られない、あるいはハナから離婚調停をする予定など場合には、裁判所にて年金分割の申立てを行う。
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④年金分割の合意(公正証書の作成、調停成立、裁判所による決定等)
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⑤公正証書や裁判所で作られた書類に基づいて年金事務所にて年金分割の請求を行う。
※離婚後2年以内にこの請求手続をしなければなりません。
2.年金分割の合意(裁判所の決定含む)をする前に死亡した場合
上記の流れでいうと、④の前に相手方が死亡したという場合ですね。
この場合は、年金分割の合意ができていませんので、相手方が死亡した以上、死亡後に年金分割の手続をすることはできなくなります。
たとえ、離婚から2年以内に家庭裁判所に年金分割の申立てを行っていたとしても、合意ができていなければ当事者死亡によって終了となります。
3.年金分割の合意(裁判所の決定含む)をした後、年金分割の請求手続を行うまでに死亡した場合
上記の流れでいうと、④と⑤の間に相手方が死亡したという場合です。
この場合は、すでに合意ができていますので年金分割を行うことができます。
ただし、相手方が死亡した日から1か月以内に年金分割を請求する必要があります(厚生年金保険法施行令3条の12の7)。
そのため、死亡日から1か月が経過してしまうと、いくら離婚から2年以内であったとしても、年金分割ができなくなりますので注意が必要です。
では、相手方が死亡したことを知らなかった場合はどうでしょうか。
たとえば、こんなケースを考えてみましょう。
2019年7月1日に調停離婚をして、これとあわせて年金分割についても調停調書にて合意しました(年金分割の請求者は妻)。
妻は離婚と年金分割の合意ができたことに安心し、仕事が忙しかったこともあり、離婚後2年以内のどこかのタイミングで年金事務所で手続をしようと思っていました。
2019年12月1日に元夫が死亡しましたが、元妻にはこの事実が知らされていませんでした。
元妻は2020年7月1日に手続をするべく年金事務所に行きました。
このケースの場合、妻の年金分割の請求自体は離婚後2年以内ではありますが、相手方の死亡後1か月を過ぎてしまっています。
このような場合はどうなるのでしょうか?
離婚した後に元配偶者が亡くなったことを知らないということもないわけではないと思います。
そのような場合でも死亡後1か月が経ってしまうと問答無用で年金分割はできなくなってしまうのでしょうか。
一つの裁判例を見てみることにしましょう。
実際、離婚が成立してから約3か月後に夫が死亡していたが、妻が知らなかったというケースがありました。
この事案において、裁判所(東京地裁平成26年7月11日判決)は次のように判断を下しました。
※下線部は当事務所によるもの
ア 原告は,厚年法78条の12の規定が,同法78条の2第1項ただし書の規定とあいまって,離婚等をしたときから2年間の標準報酬改定請求をすることができる期間を保障したものであるという理解を前提に,厚年法施行令3条の12の7の規定は,この期間を第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した日から起算して1月以内に限定するものであって,同法78条の12による委任の範囲を逸脱するものである旨を主張する。
イ しかし,標準報酬改定請求をすることができる期間について定める厚年法78条の2第1項ただし書の規定及び同規定による委任に基づき定められた厚年法施行規則78条の3の規定は,離婚等をしたときから2年を経過したとき等には,標準報酬改定請求をすることができない旨を定めている一方,上記の期間中に第2号改定者による上記の請求に係る第1号改定者が死亡した場合について,同法の基本とするところと解される前記(1)イに述べたところの例外とする旨を定める規定は見当たらず,このような同法の関係規定の文理に照らし,同法78条の2第1項ただし書の規定が離婚等をしたときから2年を経過するまでは常に標準報酬改定請求をすることができることを保障する趣旨のものであるとまでは解し難い。むしろ,前記(1)で述べたとおり,同法が,夫婦の離婚時に厚生年金保険について分割をする具体的な方法として,第1号改定者及び第2号改定者の標準報酬の改定又は決定という法技術を採用した以上は,第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡し,その者に係る標準報酬を観念することができない状況に至った場合には,離婚等をしたときから2年を経過する前であったとしても,第1号改定者及び第2号改定者の他方による標準報酬改定請求はすることができなくなることは,同法が当然に予定するところであると解するのが相当である。
そして,同法78条の12は,同法第3章の2(離婚等をした場合における特例)に定めるもののほか,離婚等をした場合における特例に関し必要な事項は,政令で定める旨を定めているにすぎないのであって,この規定が,上記のとおりの同法78条の2第1項ただし書の規定とあいまって,離婚等をしたときから2年間の標準報酬改定請求をすることができる期間を保障したものと解する余地は,直ちには見当たらない。
そうすると,前記アの原告の主張は,厚年法78条の12の規定が,同法78条の2第1項ただし書の規定とあいまって,離婚等をしたときから2年間の標準報酬改定請求をすることができる期間を保障したものであるという前提において失当であるといわざるを得ない。
これまで述べたところからすれば,標準報酬改定請求がされる前に第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した場合には,離婚等をしたときから2年を経過する前であったとしても,第1号改定者及び第2号改定者の他方による標準報酬改定請求はすることができなくなるのが本来であるところ,厚年法施行令3条の12の7の規定は,第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した日から起算して1月以内に第1号改定者及び第2号改定者の他方による標準報酬改定請求があったときに限り,第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した日の前日に標準報酬改定請求がされたものとみなすことによって,これを適法なものと取り扱おうとしたものというべきであって,同法78条の12の規定による委任の範囲を逸脱して標準報酬改定請求をすることができる期間を限定したものと解することは相当ではない。以上と異なる原告の主張は,採用することができない。
➢裁判所は、相手方が死亡したことを知らなかったとしても、相手方の死後1か月が経過していれば年金分割を行うことはできないと判断しました。つまり、相手方の死後1か月が経過していれば問答無用で年金分割はできなくなるということです。
この裁判例からもわかるように、年金分割の合意をした後は速やかに年金事務所で請求手続きを行っておいた方が無難ということになります。
以前の記事で説明したとおり、離婚後2年以内であれば年金分割の請求手続を行うことができますが、請求手続をする前に相手方が死亡してしまい、そこから1か月が経過すると年金分割ができないということになりかねません。
4.年金分割の請求手続後に死亡した場合
ちなみに、年金分割の請求手続が完了後に相手方が死亡した場合(上記の流れでいうと⑤の後に相手方が死亡した場合)は、全く年金分割に影響はありません。
5.3号分割の場合は?
ここまでは合意分割の場合について説明をしてきましたが、3号分割のみを行う場合も同様に、離婚後2年以内という期間制限があり、かつ相手方死亡後から1か月を経過すると3号分割ができなくなるという制限があります。
3号分割の場合、相手方との合意は必要ありませんが、相手方が離婚後に死亡すると1か月以内に手続をしなければならないということになりますので、離婚後2年以内に手続をすればいいやという形でのんびり構えるよりは、離婚後できるかぎり速やかに3号分割の手続を行っておいた方がよいと思います。
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