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不動産

【不動産】賃料相当損害金の訴訟物&よって書きの書き方

2021.07.19

1.はじめに

前回に引き続き賃料相当損害金の話です。

 

今回は完全に弁護士向けの話になります。

 

賃料相当損害金のよって書きをどう書けばいいのか迷われてこのサイトにたどり着いたという先生方もおられるかもしれません。

 

今回は賃料相当損害金の訴訟物とよって書きの書き方について考えてみたいと思います。

 

 

2.よくある記載例

よくあるよって書きの書き方としては以下のようなものがあります。

 

よって、原告は、被告に対し、本件賃貸借契約の終了による目的物返還請求権に基づき、本件建物の明け渡しを求めるとともに、令和〇年〇月○日から本件建物の明渡済みまで、1か月△△円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

 

このような記載例は文献等でよく見かけるところです。

 

ただ、ここで一つの疑問が生じます。

 

このよって書きには賃料相当損害金の訴訟物が記載されていないのではないか?という疑問です。

 

よって書きには訴訟物を明示しましょうというのは弁護士であれば誰もが聞いたことがある話だと思います。

 

 

3.賃料相当損害金の訴訟物&よって書き

賃料相当損害金の訴訟物について考えてみると、賃料相当損害金の訴訟物は、「履行遅滞に基づく損害賠償請求権」とするのが一般的かと思います。

 

『要件事実論30講〔第2版〕』207頁には次のような記載があります。

 

賃貸借契約終了後については、賃料支払請求権は発生しない。しかし、Yは、賃貸借契約終了に基づく目的物返還義務としての建物明渡義務があるのに、それを履行しない(履行遅滞)のであるから、③履行遅滞に基づく損害賠償請求権が発生することになり、これを訴訟物とすることが考えられる。また、賃貸借契約が終了したのであれば、YはXの所有物である本件建物を権原なく占有していることになるから、④不法行為に基づく損害賠償請求権が発生するし、また、Yは法律上の原因なくXの財産(本件建物)をによって利益(居住利益)を受けたことになるから、⑤不当利得に基づく利得返還請求権も発生するので、これらを訴訟物とすることも考えられる。Xは⑴と同様、③④⑤のいずれを訴訟物として選択することもできるが、⑴において①を訴訟物とするのであれば(※当事務所注:①とは賃貸借契約終了に基づく目的物返還請求権としての建物明渡請求権を指します。)、⑵においては③を訴訟物とするのが自然であろうから、ここでは、③が訴訟物であることを前提として解説する。

 

ということで、賃料相当損害金の訴訟物を「履行遅滞に基づく損害賠償請求権」だとして、より厳密によって書きを書くとすると、次のような記載になるはずです。

 

ここでは二つのよって書きの記載例を紹介します。

 

まずは、東京地裁平成28年9月27日判決において示されたよって書きです。

 

よって、原告は、被告に対し、本件各転貸借契約終了による目的物返還請求権に基づき、本件各建物の明渡しを求めるとともに、本件各転貸借契約に基づき、未払賃料等及び違約金(詳細は別紙のとおり)並びにこれに対する約定の年18.25%の割合による遅延損害金を、本件各建物明渡債務の履行遅滞に基づく損害賠償請求権に基づき、平成28年3月2日から本件各建物の明渡済みまで約定の賃料相当損害金(賃料相当額の倍額)の支払を、それぞれ求める。

 

次は、『借地借家事件処理マニュアル』242頁に記載されているよって書きです。

 

よって、原告は被告に対し、本件賃貸借契約の終了に基づき、

① 本件建物の明渡し

② 本件土地の明渡し

を求めるとともに、

③ 本件建物等の滞納賃料等として、28万円及び明渡債務の履行遅滞に基づく損害賠償として、平成〇年7月1日から本件建物等の明渡済みまで1か月10万5000円の割合による賃料等相当損害金の支払を

それぞれ求める。

 

いずれのよって書きも「明渡債務の履行遅滞に基づく損害賠償請求」という言葉がしっかりと入っていますね。

 

上記のとおり、賃料相当損害金の訴訟物としては、履行遅滞に基づく損害賠償権だけでなく、不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得に基づく利得返還請求権も理論的にはあり得るところですので、訴訟物を明示したよって書きの方が、より正確な記載なのではないかと思います。

 

 

 

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