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交通事故

【交通事故】治療関係費はどこまで認められるか?~過剰診療・高額診療~

2021.04.13

1.治療費が認められる要件

交通事故が起きてけがをした場合、当該交通事故から発生した怪我の治療に必要かつ相当な範囲であれば実費全額が損害として認められます。

 

ただし、過剰診療や高額診療の場合には必要性・相当性が否定される場合があるので注意が必要です。

 

過剰診療とは、必要もないのに長期間入院したり、通院を続けたりするなど、事故から発生した傷害に対する治療行為として医学的必要性ないしは合理性がないもののことを指します。

 

高額診療とは、診療行為に対する報酬額が、特段の事由がないにもかかわらず、社会一般の診療費水準に照らして著しく高額な場合を指します。

 

 

2.過剰診療が問題となるケース

患者から痛み等の訴えがある場合には、医師が入院や治療の打ち切りをしないことがあり、こういう場合に後々になって過剰診療として損害が否定されることがあります。

 

実際に過剰診療にあたるかどうかは、カルテ、レントゲン、CT、MRI、看護記録などを精査したうえで、現在の客観的症状を確認し、通常の症例と比較して治療内容が適正か、処方されている薬の内容はどうかなどといった点から判断されることになります。

 

ここで一つ裁判例を見てみましょう。

 

頸椎捻挫等による16か月間の通院をしたというケースで、被告からは「原告は長期治療の必要を主張するが、整形外科医学界では、他覚的所見のない頸椎捻挫は通常三か月程度で治癒ないし症状固定になるというのが支配的見解であるところから、原告の負つた頸椎捻挫は、本件事故日から三か月を経過した昭和六三年五月末日までには治癒ないし症状固定になつたものと判断され、それ以降の治療と本件事故との間に相当因果関係はないと考えられる。」との主張がなされました。

 

この点について、横浜地裁平成5年8月26日判決は次のように判示し、原告の治療費を認めました。

※下線は当事務所によるものです。

 

 本件事故を起因とする原告の治療費は原告主張の三一七万八九七〇円を下らないところ、その大部分を占める三宅整形外科における診療は、期間的・内容的に、必ずしも真摯な医療行為ばかりではなかつたとの疑いを払拭することはできず、この点からすると、右治療費の全部を本件事故と相当因果関係のある損害として被告の負担とすることには些か躊躇を覚えないではない。しかし、原告がその客観的原因はともかく、本件事故を契機とする各種の自覚症状のゆえに通院を続けたことは事実というべきであり、この点について原告に詐病による利得を図る意図があつたなどとは到底考えることができないから、少なくとも右治療費を本件事故による損害として請求し得ることの可否を論ずる場面においては、右の継続的通院をもつて原告を責めるのは酷である。また、三宅医師においても、なお自覚症状が続いているとして原告から治療を求められた以上、それに対応した何らかの診療行為を行つたのもやむを得ない面がないではなく、あえて不必要な治療に及んだとまでみることもできにくい。一方、いわゆる一括支払の合意のもとに毎月「自賠責診療報酬明細書」を送付されながら、事実上中途で支払を止めただけで、その後の診療に何らの異議も伝えなかつた保険会社はその本来あるべき責務を十分に果たしたとはいい難い。被告主張のように三宅整形外科における治療が必要性・合理性の範囲を超えた期間に及んでいると考えるのであれば、直ちにその旨を伝えるなどして爾後の治療費の支払を拒むことを明らかにすべきであつた。

 以上のような事情を総合すると、原告主張の治療費については、損害の公平な分担についての信義則上、その全額である三一七万八九七〇円を本件事故と相当因果関係があるものとして被告の負担とするのが相当である

 

 

3.高額診療が問題となるケース

交通事故による治療行為は、自由診療で行われることが少なくありません。

 

そのため、同一の治療内容であっても、健康保険を利用した場合の治療費と比較して数倍になるということもあります。

 

これは診療単価が健康保険を利用した場合1点=10円とされているのに対し、自由診療においてはそのような制限がないことによるものです。

 

ここでも一つ裁判例を見てみましょう。

 

診療報酬単価が争点となったケースで、東京地裁平成25年8月6日判決は次のように判示しました。

※下線は当事務所によるものです。

 

(1) 治療費等について 84万8500円

ア 前記前提となる事実(6),前記1の認定事実(6)に証拠(甲5,乙4,6)及び弁論の全趣旨を総合すると,①原告は,本件クリニックにおいて,いわゆる自由診療の方法により本件事故による傷害についての診療を受けたこと,②その診療の開始に際し,原告と原告補助参加人との間で,個別の治療費について具体的な合意はされなかったこと,③一方で,本件組合は,本件クリニックにおける原告の治療費について,いわゆる一括払の手続を手配したこと,④その結果,原告補助参加人は,健康保険法に基づく診療報酬体系とは異なる算定方式により,総治療点数4万0176点,1点単価25円とするなどして治療費を算定し,被告又は本件組合に対し,本件組合が立替払をした平成22年8月31日までのものを含め,合計208万8860円の治療費等(文書料を含む。)を請求したこと,⑤原告は,本件訴訟において,本件事故と相当因果関係のある治療費として同額を請求していることがそれぞれ認められる。

 これに対し,被告は,本件クリニックにおける原告に対する治療内容が過剰・濃厚なものであり,治療の必要性及び相当性があるとはいえず,また,健康保険法に基づく診療報酬体系と異なる算定方法により算定された治療費は相当性を欠くと主張するので,以下検討する。

イ(ア) まず,治療内容の必要性及び相当性について検討すると,臨床現場における医師による診療行為は,専門的な知識と経験に基づき,患者の個体差を考慮しつつ,刻々と変化する症状に応じて実施されるものであるから,患者に対する個々の治療内容の選択と実施については,当該医師の個別の判断を尊重し,医師に対して一定の裁量を認めることが相当である。したがって,医師による治療内容の選択と実施については,それが明らかに不合理なものであって,医師の有する裁量の範囲を超えたものと認められる場合でない限り,その必要性と相当性を欠く過剰診療又は濃厚診療であるとすることはできず,実施された治療と交通事故との間に相当因果関係を認めるべきである

 (イ) これに対し,実施された治療内容について,交通事故の加害者が被害者に対して不法行為責任に基づいて賠償すべき治療費の額は,当該事故と相当因果関係があると認められる範囲に限られるのであって,治療費の算定については,治療内容の選択と実施と同様に医師又は病院の裁量に委ねられるものとすることはできない。交通事故の被害者が病院との間で一定の算定方法により算定された額の治療費を支払う旨の合意をしたとしても,被害者が当該合意に基づいて病院に対して治療費を支払うべき義務を負うのは格別,加害者は,当該合意に拘束されるものではないから,相当な範囲を超える治療費については賠償責任を負わない

  そして,前記1で認定した原告の症状の推移及び本件クリニックにおける治療の経過によれば,原告が本件事故により負った頚椎捻挫の傷害は,何ら重篤なものではなく,また,その治療の経過をみても,高度の救急措置,麻酔管理,専門医療従事者の参加等を必要とするものではなく,さらに,その治療内容についてみても,自由診療であるといっても,特に高い専門的知識や技術を要する治療がされたわけではないから,結局,頚椎捻挫に対する一般的な治療の域を出るものではなかったといわざるを得ない。したがって,原告の傷害に対する治療は,健康保険に基づく治療の範囲により実施することも十分可能なものであったということができる。

  ところで,健康保険法においては,保険医療機関は,療養の給付に関し,療養の給付に関する費用の額から一部負担金(健康保険法74条)に相当する額を控除した額を保険者に請求することができ(同法76条1項),療養の給付に要する費用の額は,厚生労働大臣の定めるところにより算定する旨が定められており(同条2項),この厚生労働大臣の定めである「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号)によれば,療養に要する費用の額は,1点の単価を10円とし,同告示の別表(医科診療報酬点数表)において定められた点数を乗じて算定すべきものとされている。そして,厚生労働大臣が療養の給付に要する費用の額を定めるときは,中央社会保険医療協議会に諮問するものとされており(同法82条1項),同協議会は,診療報酬につき直接利害関係を有する各界を代表する委員と公益を代表する委員によって構成されており(社会保険医療協議会法3条1項),その審議の結果出される答申の内容は,各界の利害を調和させ,かつ,公益を反映させたものとして,その内容には公正妥当性が認められる。したがって,交通事故の被害者が自由診療契約に基づく治療を受けた場合であっても,本件のように,健康保険に基づく治療の範囲により治療を実施することも十分可能であったと認められるときには,実施された治療について交通事故の加害者が被害者に対して不法行為責任に基づいて賠償すべき相当な治療費の額を判断する上で,健康保険法に基づく診療報酬体系による算定方法が一応の基準になるということができる。

ウ 以上を踏まえて,原告の傷害に対する本件クリニックにおける治療内容と,当該治療について原告補助参加人によって算定された治療費等の額について,本件事故と相当因果関係が認められるものであるか否かについて検討する。

 (ア) まず,証拠(乙6)によれば,原告の治療に係る本件クリニックの各診療報酬明細書においては,平成22年5月の1回を除く全ての通院治療日について,「外来管理加算」として52点が加算されていることが認められ,同点数に基づき算定された治療費が損害として請求されている。

 しかし,証拠(乙2,12)及び弁論の全趣旨によれば,健康保険法に基づく診療報酬体系においては,「外来管理加算」は,処置,リハビリテーション等を行わずに計画的な医学管理を行った場合に算定することができ,かつ,医師による丁寧な問診と詳細な身体診察を行い,それらの結果を踏まえて,患者に対して病状や療養上の注意点等を懇切丁寧に説明するとともに,患者の療養上の疑問や不安を解消するために一定の取組みを行った場合に算定することができるものであると認められる。

 この点,証拠(乙6)によれば,本件クリニックにおいては,すべての通院治療日において理学療法が行われている上,また,原告又は原告補助参加人は,「外来管理加算」を算定する前提として,原告に対して具体的にいかなる診療行為を行ったのかを主張しておらず,上記各通院治療日に「外来管理加算」として52点を加算すべき診療が行われたと認めるに足りる証拠もない。したがって,「外来管理加算」の点数については,これを本件事故と相当因果関係のある治療費の算定の基礎とすることはできない。

 そうすると,被告が賠償すべき本件事故と相当因果関係のある治療費を算定するに当たっては,本件クリニックの診療報酬明細書に記載された総治療点数4万0176点から,1回当たり52点に加算回数である122回(通院回数123回から1を減じたもの)を乗じた6344点を減算すべきである。

 (イ) 次に,証拠(乙6)によれば,原告の治療に係る本件クリニックの各診療報酬明細書においては,①全ての通院治療日について,「理学療法(Ⅳ)複雑」として115点が加算されていること,②全ての通院治療日について,「マッサージ療法」として2100円が加算されていること,③平成22年5月及び9月の各1回を除く全ての通院治療日について,「鍼灸治療」として4200円が加算されていることがそれぞれ認められ,同点数等に基づき算定された治療費が損害として請求されている。

  a ところで,前記1の認定事実(2)のとおり,原告は,全ての通院治療日にマッサージ療法を受けるとともに,平成22年5月22日と同年9月7日の2回を除き,鍼療法を受けていることが認められるが,マッサージ療法と鍼療法の併用は,C医師の判断に基づくものであり,また,同(3)から(5)までのとおり,当該治療により原告の疼痛症状について一定の低減効果があったことが認められる。

 そうすると,原告に対してマッサージ療法と鍼療法を併用して実施したことは,原告の通院が極めて高頻度といえる時期があることを考慮しても,C医師が有する治療内容の選択と実施に係る裁量を逸脱したものとまでは認められない。

  b もっとも,証拠(乙2,12)及び弁論の全趣旨によれば,健康保険法に基づく診療報酬体系においては,鍼療法と併用することができる理学療法は,消炎鎮痛措置の35点に限られ,この場合にマッサージ療法について同35点と別に請求することができないことが認められるところ,本件においては,原告に対して電気マッサージが実施されたことがうかがわれるものの,原告又は原告補助参加人において,115点の算定に相応する理学療法を実施した,あるいは,原告に対して健康保険法に基づく診療報酬体系において想定されているものとは異なる特段のマッサージ療法が実施されたとの具体的な主張をしておらず,それを認めるに足りる的確な証拠もない。したがって,35点を超える理学療法の点数部分及びマッサージ療法の実施に係る治療費部分については,これを本件事故と相当因果関係のある治療費の算定の基礎とすることはできない。

 そうすると,被告が賠償すべき本件事故と相当因果関係のある治療費を算定するに当たっては,本件クリニックの診療報酬明細書に記載された総治療点数4万0176点から,1回当たり80点に加算回数である123回(通院回数と同じ。)を乗じた9840点を減算し,また,原告又は原告補助参加人の請求に係る総治療費等から,1回当たり2100円に加算回数である123回を乗じた25万8300円を減じたものとすべきである。

 (ウ) 次に,証拠(乙6)によれば,原告の治療に係る本件クリニックの各診療報酬明細書においては,平成22年5月21日に「初診料」として274点が,同月30日から同年7月31日までの全ての通院治療日について,「再診料」として73点が,同年8月1日以降の全ての通院治療日について,「再診料」として74点(ただし,同年9月のうちの11回は73点と推認される。)がそれぞれ加算されていることが認められ,同点数に基づき算定された治療費が損害として請求されている。

  しかし,証拠(乙2,12)及び弁論の全趣旨によれば,平成22年当時の健康保険に基づく診療報酬体系においては,初診料が270点,再診料が69点であったことが認められるところ,原告又は原告補助参加人において,これを超える初診料又は再診料を算定すべき理由について具体的な主張をしておらず,その必要性を認めるに足りる的確な証拠もない。したがって,健康保険法に基づく診療報酬体系の各点数を超える部分については,これを本件事故と相当因果関係のある治療費を算定する基礎とすることはできない。

  そうすると,被告が賠償すべき本件事故と相当因果関係のある治療費を算定するに当たっては,本件クリニックの診療報酬明細書に記載された総治療点数4万0176点から,初診料に係る4点並びに再診料に係る平成22年7月31日までの84点(1回当たり4点に通院回数である22回から1を減じた21回を乗じたもの)及び同年8月以降の494点(1回当たり4点に通院回数11回を乗じた数と1回当たり5点に通院回数90回を乗じた数との和)の合計582点を減算すべきである。

 (エ) 次に,証拠(乙6)によれば,原告の治療に係る本件クリニックの各診療報酬明細書においては,平成22年5月の1回を除く全ての通院治療日について,「再診時療養指導管理料」として1080円が加算されていることが認められ,これに基づき算定された治療費が損害として請求されている。

  しかし,証拠(乙2,12)及び弁論の全趣旨によれば,「再診時療養指導管理料」は,労働者災害補償保険に基づく診療においては加算することができるが,健康保険に基づく診療においては加算することができない項目であることが認められるところ,原告に対する治療は労働者災害補償保険に基づく診療ではない。また,原告又は原告補助参加人において,同加算をすべき理由について具体的な主張をしておらず,その必要性を認めるに足りる的確な証拠もない。したがって,「再診療養指導管理料」については,これを本件事故と相当因果関係のある治療費を算定する基礎とすることはできない。

 そうすると,被告が賠償すべき本件事故と相当因果関係のある治療費を算定するに当たっては,原告又は原告補助参加人の請求に係る総治療費等から,1080円に加算回数122回(通院回数123回から1を減じたもの)を乗じた13万1760円を減算すべきである。

 (オ) さらに,証拠(乙6)によれば,原告の治療に係る本件クリニックの各診療報酬明細書においては,1点単価25円で治療費が算定されていることが認められ,このように算定された治療費が損害として請求されている。

  しかし,上記イ(イ)のとおり,健康保険法に基づく診療報酬体系においては,1点単価10円で治療費が算定されているところ,原告又は原告補助参加人において,これを超える単価により治療費を算定すべき理由について具体的な主張立証をしていない。また,原告の受傷に対する治療が健康保険法に基づく治療の範囲を超えるものであったと認めることができないことは,上記イ(イ)のとおりであり,上記単価を修正すべき事情もうかがわれない。

 そうすると,被告が賠償すべき本件事故と相当因果関係のある治療費を算定するに当たっては,1点単価を10円とすべきである

 

 

このようにして、上記裁判例においては、健康保険の基準(1点単価=10円)で治療費を算定しました。

 

これは「一点単価10円判決」として実務に与えるインパクトは大きなものでしたが、現在においてはおおむね健康保険の基準の1.5倍から2倍程度については認める事例が多いとされており、最近では高額の診療報酬の相当性が争われるケースは少なくなってきているといわれています。

 

 

 

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