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離婚・男女問題
【離婚】祖父母の面会交流に関する重要判例(最高裁令和3年3月29日決定)
1.はじめに~事案の概要
先日、祖父母の面会交流に関する重要な決定が最高裁で出されました。
まずはどのような事案であったのかを紹介します。
A男は、平成24年11月、B女と婚姻し、平成28年8月、Bとの間に子Cをもうけました。
A男は、B女、子C及びBの両親(Cの祖父母)D・EとD宅で同居していましたが、平成29年1月頃、D宅を出て別居するようになりました。
A男とB女は、平成29年3月以降、1週間又は2週間ごとに交替で子Cを監護し、祖父母D・Eは、B女による子Cの監護を補助していました。
B女は、平成30年6月に死亡し、以後、A男が子Cを監護していました。
そこで、祖父母D・Eが、A男に対して面会交流の審判を申立てました。
ここで争点となるのは祖父母に面会交流審判を申し立てる権限があるか否かという点です。
では、裁判所の判断を見てみましょう。
2.原審の判断
原審(抗告審)は概要次のとおりの判断を示しました。
父母以外の事実上子を監護してきた第三者が、子との間に父母と同視し得るような親密な関係を有し、上記第三者と子との面会交流を認めることが子の利益にかなうと考えられる場合には、民法766条1項及び2項の類推適用により、子の監護に関する処分として上記の面会交流を認める余地がある。相手方らは、本件子の祖父母であり、Bを補助して事実上本件子を監護してきた者であるから、相手方らと本件子との面会交流を認めることが本件子の利益にかなうか否かなどを審理することなく、本件申立てを不適法として却下することはできない。
このように、原審は民法766条1項及び2項の類推適用という法律構成をとって、子の監護に関する処分として祖父母にも面会交流を認める余地があるとの判断を示しました。
3.民法766条の解説
ここで、民法766条とはどのような条文なのかをご紹介します。
第766条【離婚後の子の監護に関する事項の定め等】
1 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前3項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
民法766条1項には「父又は母と子との面会及びその他の交流」とあることから、祖父母にはストレートにこの条文は当てはまらないわけです。
そこで、原審は「類推適用」という構成で祖父母に面会交流の審判申立ての余地を認めました。
4.最高裁の判断
では、最高裁はどのような判断をしたのか見てみましょう。
(1) 民法766条1項前段は、父母が協議上の離婚をするときは、父又は母と子との面会交流その他の子の監護について必要な事項は、父母が協議をして定めるものとしている。そして、これを受けて同条2項が「前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。」と規定していることからすれば、同条2項は、同条1項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。
他方、民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく、上記の申立てについて、監護の事実をもって上記第三者を父母と同視することもできない。なお、子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければならないものであるが(民法766条1項後段参照)、このことは、上記第三者に上記の申立てを許容する根拠となるものではない。
以上によれば、民法766条の適用又は類推適用により、上記第三者が上記の申立てをすることができると解することはできず、他にそのように解すべき法令上の根拠も存しない。
したがって、父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として上記第三者と子との面会交流について定める審判を申し立てることはできないと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると、相手方らは、Bによる本件子の監護を補助してきた者であるが、本件子の父母ではないから、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として相手方らと本件子との面会交流について定める審判を申し立てることはできない。したがって、相手方らの本件申立ては、不適法というべきである。
5 以上と異なる原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原決定は破棄を免れない。
そして、子の監護に関する処分の申立てを却下する審判に対して即時抗告をすることができるのは「子の父母及び子の監護者」(家事事件手続法156条4号)であるところ、前記2の事実関係によれば、相手方らが本件子の「父母」又は「監護者」のいずれにも当たらないことは明らかである。したがって、原々審判に対する相手方らの抗告は不適法であるから、これを却下することとする。
ということで、最高裁は原審の判断をひっくり返して、祖父母を含めた父母以外の第三者からの面会交流審判の申立ては認められないという結論を示しました。
理由としては、①民法766条は「父母」の申立てを予定しているものであること、②法律上、父母以外の第三者が,家庭裁判所に面会交流の審判を申し立てることができることを定めた規定は存在しないこと等が挙げられています。
5.最後に
結論としては、祖父母には面会交流審判の申立てを行う権限はないということになりました。
ただ、ここで誤解しないでいただきたいのは、祖父母が孫と絶対に面会してはいけないという意味ではないということです。
あくまで、祖父母は法的手続として面会交流審判の申立てを行うことができないというだけで、父母の合意等に基づいて祖父母とも面会交流を行う取り決めをすることなどは全く問題ありません。
実際、当事務所の関与した事件でも祖父母の面会を認める内容の合意を行ったこともございます。
まとめると、
➢合意があれば祖父母が孫と面会交流を行うこと自体は問題がない
➢しかし、合意ができないときに、祖父母が裁判所に対して面会交流の審判を申し立てることはできない
ということになります。
この最高裁の決定が実務に与える影響は小さくないと思いますが、くれぐれもこの最高裁の決定を読んで、祖父母は孫と面会交流を「してはならない」と考えないようにしていただきたいと思います。
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