ご予約はこちら
BLOG

相続

【相続】使途不明金問題の解決方法~被相続人死亡後の引き出しのケース~

2021.06.16

1.はじめに

前回の記事では、被相続人の生前に使途不明な金銭が引き出されたケースを取り上げました。

 

今回は、被相続人の死後に金銭が引き出されたケースを考えてみることにしましょう。

 

たとえば、被相続人の相続人は、長男A、二男B、三男Cの3人だったとしましょう。

 

二男Bが被相続人の預金口座の取引履歴を確認したところ、被相続人の死亡直後に500万円(50万円×10回)が引き出されていることが判明しました。

 

Bは、亡くなった人間が口座から引き出すことはできないので、間違いなくAかCが引き出したに違いないと考え、AとCに事実関係を確認しました。

 

すると、Aは自分が引き出したことを認めました。

 

被相続人の遺産としては、この引き出された500万円のほかに1000万円の預金があったとします。

 

このような場合、被相続人の死亡後にAが引き出したこの500万円はどのように扱われるのでしょうか?

 

 

2.全相続人の同意がある場合

遺産分割の対象となる財産は、①相続時(被相続人の死亡時)に存在し、かつ②遺産分割時にも存在していなければなりません。

 

そうすると、遺産分割前にお金が引き出されてしまうと、遺産分割時には存在しないということになるので、原則として遺産分割の対象になりません。

 

したがって、上記のケースの場合、Aが引き出した500万円は遺産分割の対象にならないということになりそうです。

 

もっとも、全相続人の同意があれば遺産分割の対象とすることができます。

 

BとCはこの500万円を遺産分割の対象にすることに異論はないとして、Aが遺産分割の対象にすることに同意すれば全相続人の同意によってこの500万円は遺産分割の対象にすることができるということになります。

 

つまり、500万円を遺産分割の対象にすれば遺産総額は1500万円となり、Aはすでに500万円を受領しているので、残る1000万円をBとCで500万円ずつに分けるということになります。

 

 

3.引き出した人が遺産分割の対象にすることに同意しなかった場合

ではAが「この500万円は確かに自分が引き出したけど、被相続人の葬儀費用とか未払いの債務の弁済のために全部使ったんだから、遺産分割の対象にするのはおかしい」と言った場合はどうでしょうか。

 

仮に上記のとおり遺産分割の対象になるとすれば、Aはすでに500万円を受領しているので、残る1000万円をBとCが500万円ずつ取得することになります。

 

しかし、Aからすると、引き出した500万円は被相続人のために使ったもので、自分のために使っていない以上、遺産分割の対象にされてしまうと、自分の取り分がなくなってしまうということになりかねません。

 

そのため、Aは遺産分割の対象とされることに反対しているわけです。

 

この点、改正民法906条の2には次のような規定が設けられました。

 

(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)

第906条の2 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。

2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

 

906条の2第1項は正に全相続人の同意がある場合ですので遺産分割の対象にするということに特に違和感はないと思います。

 

一方で、第2項に注目してみると、財産を処分した相続人の同意は必要でないということが書かれています。

 

つまり、本ケースでいうとAの同意がなくとも、Aが引き出した500万円は遺産分割の対象とすることができるということになります。

 

したがって、いくらAが「引き出した500万円は自分のためではなく被相続人のために使ったんだ!」と強弁しても、BとCがこのAの説明に納得せずに相続財産の対象とするべきだと主張すれば、この500万円も遺産分割の対象となるということです。

 

となると、Aが真に被相続人のために500万円を使っていた場合には、Aからするととても納得できないということになりそうです。

 

そこで、Aがこの500万円について争いたいということになれば、AからB・Cに対して訴訟を提起するほかないということになります。

 

 

4.Aが引き出し行為を認めていない場合はどうなるか?

上記ケースではA自身が引き出しを認めていますので、民法906条の2を適用して遺産分割の対象にするという処理をすることができます。

 

しかし、Aが「自分は500万円を引き出していない」と主張した場合にはこの規定を適用することはできません。

 

したがって、Aが引き出しの事実を認めない場合には、やはり訴訟によって解決するほかないということになります。

 

 

5.被相続人の生前の引き出しのケースで民法906条の2は使えないの?

前回の記事を読んでいただいた方からすると、被相続人の生前に引き出したケースでも民法906条の2を適用して遺産分割の対象にすればいいのでは?と思われるかもしれません。

 

しかし、相続開始前(被相続人の死亡前)に財産が処分された場合には民法906条の2は適用されません(『Q&A改正相続法のポイント』50頁)。

 

そのため、被相続人の生前の財産の処分が問題となるケースは、前回の記事で説明したような解決の方法を探ることになります。

 

 

6.まとめ

以上のとおり、被相続人の死亡後に預金を引き出すなどの財産の処分を行い、良かれと思って葬儀費用等に充ててしまうと、後々になって他の相続人がその財産処分に納得しなかった場合に思わぬ紛争を引き起こしてしまう可能性があります。

 

そのため、特定の相続人の独断で被相続人の財産から支払等をするのではなく、できる限り全相続人で話し合って進めていった方が後々揉めにくいと考えられます。

 

 

☆遺産分割、遺言、遺留分、寄与分、特別受益などでお悩みの方は相続に強い弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

 

弁護士法人千里みなみ法律事務所では相続事件に力を入れて取り組んでおり、相続分野は当事務所の得意とする分野の一つです。

 

多数の解決実績やノウハウを生かして適切なアドバイスを行いますので、お気軽にお問い合わせください。

 

相続に関するご相談は初回30分無料で受け付けております。

 

お問い合わせフォームまたはお電話よりご予約いただきますようお願いいたします。