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離婚・男女問題

【大阪の離婚弁護士が教える】完全解説 養育費の時効は何年?

2022.04.14

1.はじめに

夫婦が離婚する際に、未成年の子どもがいる場合には養育費の取り決めをするのが一般的です。

 

しかし、現実的には取り決めの内容どおりに養育費が支払われないということも少なくありません。

 

こういった場合、養育費の支払を受ける側が何も対応せずに放っておくと、時効によって養育費を請求する権利が消滅していってしまいます。

 

では、いったい何年で養育費は時効によって消滅するのでしょうか?

 

この養育費と時効というテーマは、意外とサイトや文献でもきっちりと解説していることが少なく、しかも改正前民法を前提とした解説があったりして混乱しがちなところですので、できるだけわかりやすく解説してみたいと思います。

 

なお、この解説は基本的には改正民法を前提としていますが、改正民法が施行されたのは2020年4月1日です。

 

そのため、2020年3月31日までに養育費が決まったという場合には、改正前民法が適用されることになります(附則(平成二九年六月二日法律第四四号)10条1項、4項)ので、ご注意ください。

 

 

2.消滅時効の原則

民法には次のような規定があります。

 

第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

 

この民法166条1項1号を見ると、「権利を行使することができることを知った時から5年」で債権は時効消滅するということがわかります。

 

養育費の請求権も「債権」ですから、請求できることを知った時から5年で消滅してしまうということになります。

 

たとえば、毎月末日までに養育費を5万円払うという約束で2021年1月に離婚が成立したとします。

 

1月から5月までは養育費の支払いがありましたが、6月から支払いがストップしてしまいました。

 

この場合、支払期限である2021年6月30日の翌日である7月1日から時効期間がスタートすることになり、2026年6月末日の経過をもって、2021年6月分の養育費は消滅時効にかかるということになります。

 

そして、2021年7月分の養育費は2026年7月末日の経過をもって消滅時効にかかり、2021年8月分は2026年8月末日の経過をもって・・・というような形で毎月毎月消滅時効にかかっていくということになります。

 

ということで、養育費の時効期間は5年ということをまずはしっかりと押さえておきましょう。

 

 

3.調停や訴訟で養育費が決まった場合は?

調停や訴訟で養育費を決めれば時効期間が違うというような話を聞いたこともあるかもしれません。

 

では、実際どうなんでしょうか。

 

ここでも民法の条文を見てみましょう。

 

第百六十九条 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。

2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。

 

 

この条文には「10年」という時効期間が書かれていますね。

 

ここでいう「確定判決」というのは、訴訟で判決が出されて養育費が決まった場合と理解していただければと思います。

 

一方で、「確定判決と同一の効力を有するもの」ってなに?となるかもしれませんが、調停や審判(家事事件手続法268条1項)、訴訟上の和解(民事訴訟法267条)等を指すと考えていただければと思います。

 

ちなみに、公正証書の場合は、「確定判決と同一の効力を有するものにより確定したる権利には該当しない」とされています(東京高判昭和56年9月29日・東高民時報 32巻9号219頁)。

 

となると、民法169条1項によって、訴訟、調停、審判で養育費が決まった場合には時効期間は10年となるようにも思えます。

 

しかし、2項をよく読んでみてください。

 

「前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。」と書かれていますね。

 

先ほどの例と同じく、2021年1月に離婚調停が成立し、その調停の中で毎月の養育費を5万円とするという合意をしたとします。

 

そして、2021年6月分の養育費から支払いがストップしたとすると、養育費が確定した時点である2021年1月の時点では2021年6月分の養育費請求権は「弁済期の到来していない債権」となるわけです。

 

ということで、結局、訴訟、調停等で養育費が決まったとしても原則どおり5年の時効期間ということになります。

 

じゃあ169条1項でいう10年という消滅時効はどういう場合に適用されるの?というと、これは過去の未払いの養育費の支払いについて訴訟等で確定的に決められた場合には消滅時効の期間が10年となるということを意味します。

 

まだわかりにくいですね。

 

具体例を出しましょう。

 

先ほどの例で、2021年6月から2022年5月まで支払いがないということで、2022年6月に過去の未払の養育費を支払ってもらうべく訴えを提起したとします。

 

その結果、「2021年6月から2022年5月までの未払の養育費として、金60万円(5万円×12か月)を支払え」というような判決が出た場合、この60万円の請求権の時効期間は10年となるわけです。

 

 

4.定期金債権(民法168条)との関係

ここからは法律家向けの解説になるかもしれません。

 

さらに民法をしっかりと読むと、ふとした疑問がわいてきます。

  

第百六十八条 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき。

二 前号に規定する各債権を行使することができる時から二十年間行使しないとき。

 

 

ここでいう「定期金の債権」というのは、終身年金のように定期に一定の金銭を給付させることを目的とする権利のことです。

 

とすると、養育費もまさに定期に一定の金銭を給付してもらうものですので、「定期金の債権」ということになります。

 

そうであれば民法168条1項1号によって、やっぱり消滅時効期間は10年なんじゃないの?という疑問がわいてきます。

 

そこで、条文をよく見てみると、①「定期金の債権」という言葉と、②「定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権」という言葉が使い分けられていることがわかります。

 

つまり、②を行使することができることを知った時から10年間行使しなかったときは、①が時効によって消滅するという条文構造になっています。

 

①のことを基本権、②のことを支分権と読んだりすることもあります。

 

ちなみに、改正前民法では②のことを定期給付債権と読んでいました。

 

養育費に引き付けて考えると、養育費という権利そのものが①(基本権)で、毎月発生する養育費を請求できる権利を②(支分権)と捉えてもいいと思います。

 

とすると、2021年6月分の養育費を2031年6月末日までほったらかしにしていると、「定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき」に該当し、その結果、養育費そのものが時効で消えてしまうということになるわけです。

 

先ほどの解説とあわせると、毎月発生する養育費の請求権は5年で時効にかかり、10年間放置しておくと養育費そのものが時効でなくなってしまうということになります。

 

 

5.養育費を時効にかからせないためにできることは?

養育費の時効期間は5年ということがわかりましたが、では請求する側は指をくわえて時効にかかるのを待つしか方法はないのでしょうか。

 

実は時効期間をリセットする方法があります。

 

これを時効の更新といいます。

 

具体的には、裁判などの法的手続での請求をしたり(民法147条)、強制執行などの手続をとったり(民法148条)、あるいは債務者に債務)の存在を承認させる(民法152条)といった方法を取る必要があります。

 

ですから、養育費が時効にかからないようにするためにはこういった手段を検討しなければなりません。

 

ご自身では対応が難しいケースもありますので、養育費の不払いでお悩みの場合はまずは弁護士にご相談されることをおすすめします。

 

 

 

☆離婚、親権、養育費・婚姻費用、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割などでお悩みの方は離婚問題に強い弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

 

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