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民事裁判
【大阪の弁護士が教える】予備的併合と選択的併合の使い分け/請求の趣旨・よって書きの書き方
1.予備的併合、選択的併合とは?
予備的併合というのは、両立しない関係にある複数の請求について順位を付け、1次的な請求(主位的請求)が認容されることを解除条件として、2次的な請求(予備的請求)について審理・判決を求める併合形態です。
2次的な請求にとどまらず、3次的、4次的な請求を行うことも可能です。
これだけではよく分からないと思うので、具体例を挙げてみます。
たとえば、売買契約に基づいて売買代金の請求を行うのを1次的な請求としつつも、仮に売買契約が無効であった場合に備えて予備的に、売った物の返還請求を2次的な請求とするというような場合です。
選択的併合というのは、法律上両立しうる複数の請求のうちの一つが認容されることを、他の請求の審理・判決の解除条件とする併合形態で、請求の順位付けはありません。
具体例としては、医療ミスがあったという訴えをする場合に、病院や医師の注意義務違反があったということで債務不履行に基づく損害賠償請求を行うとともに、あわせて不法行為にも該当するということで不法行為に基づく損害賠償請求も行うというような場合です。
2.予備的併合と選択的併合の使い分け
予備的併合と選択的併合は、上記のとおり、理論的に異なるものですが、実務においてどちらの併合形態でいったらいいのか悩ましいというような場面があるのも事実です。
では、どのようにして予備的併合と選択的併合を使い分ければいいのでしょうか。
この点について記載された文献を紹介してみたいと思います。
実務上は、予備的併合と選択的併合については、非両立の関係の場合は予備的併合、請求権競合の関係の場合は選択的併合と厳格に峻別されているわけではなく、予備的併合と選択的併合のどちらにするかは当事者に任されており、単純併合ができる場合にも、裁判所は、そのような限定を特に意識することもなく、当事者が解除条件をつけることを広く許容する扱いをし、そのまま審理し、判決している例が多いとも言われています(中略)。このように、三つの併合態様は理論的に峻別できるものの、実務の扱いは必ずしも厳密ではなく、当事者に実益があって、手続上も特に弊害がなければ、これと違った申立ても許容されているようです。そして、問題がある場合には、審理の過程で釈明等を通じて、適宜修正されていっているのだと思われます。
(木﨑孝編著「最新 複雑訴訟の実務ポイント-訴えの変更、反訴、共同訴訟、訴訟参加、訴訟承継-」10頁)
このように、実務上は、必ずしも予備的併合と選択的併合が厳密に使い分けられているわけではないようです。
3.裁判例を見てみると・・・
不法行為に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求の両方が請求されている近時の裁判例における原告の請求をいくつか見てみることにします。
①東京地判平成30年11月7日
(原告の請求)
1 主位的請求
(1) 被告は,原告X1に対し,143万5000円及びこれに対する平成27年10
月28日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,原告X2に対し,71万7500円及びこれに対する平成27年10月
28日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
(1) 被告は,原告X1に対し,130万5000円及びこれに対する平成27年10
月29日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,原告X2に対し,65万2500円及びこれに対する平成27年10月
29日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
➢予備的併合形態
主位的請求:不法行為に基づく損害賠償請求(弁護士費用として損害額の1割加算額を請求)
予備的請求:不当利得返還請求
②東京地判平成30年12月28日
(原告の請求)
1 被告Y1は,原告X1に対し,771万3019円及びうち114万4804円に対
する平成25年6月14日から,うち656万8215円に対する平成27年12月29日
から,いずれも支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
2 被告Y1は,原告X2に対し,771万3019円及びうち114万4804円に対
する平成25年6月14日から,うち656万8215円に対する平成27年12月29日
から,いずれも支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
3 被告らは,原告X1に対し,連帯して170万円及びこれに対する平成22年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告らは,原告X2に対し,連帯して170万円及びこれに対する平成22年9月3
0日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
➢選択的併合形態(不法行為又は不当利得に基づいて請求)
※弁護士費用を加算した請求せず
③東京地判令和2年3月9日
(原告の請求)
1 被告は,原告に対し,351万5509円及びこれに対する平成29年6月11日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
➢選択的併合形態(不法行為又は不当利得に基づいて請求)
※弁護士費用を加算した請求せず
④東京地判令和3年4月26日
(主位的請求)
1 被告は,原告X1社に対し,7126万4508円及びこれに対する平成22年10
月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2社に対し,1992万6098円及びこれに対する平成22年11
月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告X3社に対し,1455万7433円及びこれに対する平成22年8月
17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
1 被告は,原告X1社に対し,7126万4508円及びこれに対する平成30年3月
10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2社に対し,1992万6098円及びこれに対する平成30年3月
10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告X3社に対し,1455万7433円及びこれに対する平成30年3月
10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
➢予備的併合形態
主位的請求:不法行為に基づく損害賠償請求
予備的請求:不当利得返還請求
※主位的請求と予備的請求の請求額は同額で、いずれも弁護士費用を加算した請求せず
⑤小括
上記の裁判例をみてもわかるとおり、不法行為に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求の両方が請求されている事案を4つ並べただけでも、予備的併合の事例もあれば選択的併合の事例もあります。
また、請求額に弁護士費用を加算している事例もあれば、加算していない事例など様々です(ちなみに、実務上は不法行為に基づく損害賠償請求の場合は弁護士費用として損害額の1割を加算することが多いとされています)。
このことは、前述した、実務上は必ずしも予備的併合と選択的併合が厳密に使い分けられているわけではないということを表しているものと思われます。
もちろん、それぞれ事案が異なるため、その結果として事例ごとに異なる法律構成となったということも十分考えられますので、どのような方法が正しいというのは一概に言いづらいところではあります。
4.請求の趣旨の書き方
予備的併合と選択的併合で、請求の趣旨の記載は次のように異なります。
①予備的併合の場合
(請求の趣旨)
1 (主位的請求)
被告は、原告に対し、〇円を支払え。
2 (予備的請求)
被告は、原告に対し、×円を支払え。
②選択的併合の場合
(請求の趣旨)
被告は、原告に対し、〇円を支払え。
このように、選択的併合の場合は、単一の請求をするときと請求の趣旨は変わらないということになります。
5.よって書きの書き方
①予備的併合の場合
よって、原告は、被告に対し、主位的に、本件契約に基づき売買代金〇円の支払を求め、予備的に、本件契約の解除に基づく原状回復として本件動産の引き渡しを求める。
※もっとも、主位的請求と予備的請求が全く同一内容であれば、1つにまとめ、よって書きにおいてその旨を明らかにすればよいとされています。
②選択的併合の場合
よって、原告は、被告に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害金〇円の支払を求める。
※上記の記載例は、岡口基一著「民事訴訟マニュアル(上)書式のポイントと実務」の内容を引用させていただきました。
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