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離婚・男女問題

【大阪の離婚弁護士が教える】風俗は「不貞行為」に当たるか

2023.08.25

1.不貞行為という言葉が用いられる2つの場面

一般に、不貞行為とは、結婚しているにもかかわらず、配偶者以外の異性と肉体関係(性交渉)を持つことを意味すると考えられています。

 

しかし、性交渉はなくとも、「不貞行為」に当たるというような表現が用いられることがあります。

 

その一方で、性交渉がない限りは「不貞行為」には当たらないというような表現が用いられることもあり、不貞行為という言葉の用いられ方がやや不透明な側面があるように思われます。

 

この原因は、後述のとおり、不貞行為の意味を巡って二つの見解があることや、①不貞行為によって慰謝料が発生するか(不貞行為が民法709条にいう不法行為に該当するか)という論点と、②不貞行為が離婚事由に当たるか(民法770条1項1号にいう「不貞行為」の意味は何か)という論点を分けていないことにあります。

 

この点は、一般の方が誤解しがちな(場合によっては弁護士もあまり意識していない)ポイントですので、以下では、慰謝料の問題と離婚の問題を分けて解説をしていくこととします。

 

 

2.風俗店の利用は慰謝料発生事由たる不貞行為(不法行為)に当たるか

たとえば、夫が、妻に内緒で風俗店を利用し、性交渉は伴わないが性的サービスを受けたところ、それが妻にバレたというケースがあったとします。

 

この場合、妻は夫に対して、夫の風俗通いによって、婚姻関係が破綻したとして慰謝料請求ができるのでしょうか。

 

不貞行為という言葉を、厳密に性交渉があった場合に限定すると、性交渉を伴わない性的サービスを受けただけであれば、不貞行為には当たらない=慰謝料請求は認められないということになりそうです。

 

しかし、次のような裁判例があります。

 

【大津家判令和元年11月15日(判タ1498号45頁)】

原告(注:夫)は,被告(注:妻)から小遣い(原告によれば2か月に1回30万円,被告によれば月30万円)を貰い,ピンサロ,ファッションヘルス,キャバクラ等に行き,知人と女体盛を企画したり,風俗店の女性店員と食事に行く等した。

(中略)

複数の風俗店に通い,女体盛を企画し,風俗店の女性店員と食事に行く等したことが認められ,これが婚姻関係破綻の一因となったものと認められる。原告が支払うべき慰謝料としては100万円と認めるのが相当である。

 

この裁判例の控訴審は次のように判断しています。

 

【大阪高判令和 2年 9月 3日(判タ1498号42頁)】

被控訴人(注:夫)は,平成26年頃から,友人とともに複数の風俗店(ピンサロ,ファッションヘルス,キャバクラ等)に通うようになった。友人とのやり取りしているラインの中には女体盛りの企画があった。被控訴人は,風俗店の女性店員と食事に行ったりしていた。

(中略)

被控訴人と控訴人(注:妻)の婚姻関係が破綻した原因は被控訴人によるものが大きいというべきであり,被控訴人の控訴人に対する態度,風俗通いの頻度,未成年の子の存在,婚姻期間の長さ等,本件にあらわれた一切の事情を総合すると,被控訴人が控訴人に支払うべき慰謝料は120万円と認めるのが相当である。

 

この裁判例で認定されている事実を前提にすると、夫は風俗店に通っていたようですが、性交渉を伴う店ではないと推察されます。

 

そうすると、性交渉がなくとも風俗通いが婚姻関係破綻の原因になったということであれば、風俗通いが不法行為となって慰謝料請求が認められる可能性があります。

 

 

一方で次のように認定して、慰謝料を認めなかった裁判例もあります。

 

【東京地判令和3年11月29日(令和2年(ワ)26249)】

証拠(中略)によれば,被告(注:夫)が原告(注:妻)との同居中に,自己の財布の中に,風俗ヘルスのポイントカード,高級ソープランドの会員証,ホテルヘルスのスタンプカード及びピンクサロンの未使用の割引券を所持していたほか,居宅において,別の風俗店のメッセージカードをごみ袋に投棄していたこと,さらに,原告との別居後において,上記ピンクサロンの使用済み割引券を被告が居宅内に所持していたことが原告に発覚したことが認められる。この点,被告は,上記ポイントカード等は夫婦関係について相談した友人から冗談半分に渡されたものであり,被告が風俗店を利用したのは上記ピンクサロンの1回のみである旨を主張する。

 上記ポイントカード等を所持していた理由についての被告の主張は,客観的な証拠に裏付けられたものではないが,かといって上記ポイントカード等を所持していたことから直ちに被告がこれらの風俗店を利用していたとまでは認めることができず,被告が自認する上記ピンクサロンの1回の利用を除いて,被告が風俗店を利用していたことを認めるに足りる他の証拠は存しない。

 また,被告が利用した上記ピンクサロンが性的なサービスを提供する風俗店であることは被告本人も認めるところであるが(被告本人尋問),被告が実際に同ピンクサロンで性的サービスを受けたかどうか,受けたとしてそのサービスの内容がどのようなものであったかについては,これを認めるに足りる的確な証拠がない。

 したがって,被告が風俗店を利用した事実は,上記の限度で認められるものの,これをもって被告に不貞行為があったとは認められず,婚姻を継続し難い重大な事由に当たるとも直ちには認めることができない。

 

 

これらの裁判例を見ると、夫が風俗店を利用したことがあるというだけで必ずしも慰謝料請求が認められるというわけではないといえそうです。

 

 

3.風俗店の利用は離婚事由たる不貞行為に当たるか

次は、風俗通いが原因で離婚が認められるかという問題です。

 

民法770条1項1号には「配偶者に不貞な行為があったとき」には、離婚の訴えを提起することができると定められています。

 

つまり、協議段階や調停段階において、一方配偶者が離婚を拒否したとしても、その配偶者に不貞行為があるということが立証できれば、裁判所が離婚を認めてくれるということになります。

 

では、風俗通いが「不貞行為」に当たるのでしょうか。

 

この点について、民法770条1項1号にいう「不貞行為」には、①貞操義務違反を疑わせるような性的不謹慎行為の一切を含み、姦通(性交関係)よりも広い概念であるとする見解(広義説)と、②配偶者以外の者と性的関係を結ぶことであるとする見解(狭義説)があります。

 

裁判実務はどう考えているかというと、判例(最判昭和48・11・15家月26・3・24)は、配偶者のある者が配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうと判示しており、狭義説を採用しているといわれています(松原正明編著『人事訴訟の実務』新日本法規177頁)。

 

そうだとすれば、性的サービスを提供するものの性交渉は伴わない風俗店の利用は民法770条1項1号にいう「不貞行為」には当たらないといえそうです。

 

では、実際の裁判例はどうか見ていくこととします。

 

【横浜家判平成31年 3月27日(平成30年(家ホ)6)】

被告(注:夫)は,平成29年12月21日に1回デリヘルの性的サービスを受けているが,関係証拠(中略)に弁論の全趣旨を総合しても,それ以上に利用したことがあったとは認めるに足りない。

また,仮にあと数回の利用があったとしても,被告は発覚当初から原告(注:妻)に謝罪し(中略),今後利用しない旨約束していること(中略)からすると,この点のみをもって,離婚事由に当たるまでの不貞行為があったとは評価できない。

(中略)

以上によれば,原告の離婚請求には理由がなく,そうすると,離婚慰謝料の請求についても同じく理由がないこととなる

 

 

あくまで下級審の判断ではありますが、風俗店(デリヘル)で性的サービスを受けたことは、民法770条1項1号にいう不貞行為には当たらないと判断したものがあるということがわかります。

 

ただし、民法770条1項1号の不貞行為に当たらないとしても、同条項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるとして離婚が認められる可能性がありますから、その点は誤解のないようにしていただければと思います。

 

 

4.まとめ

以上をまとめると、①性的サービスを提供する風俗店を利用することが婚姻関係破綻の原因となったということであれば慰謝料請求が認められる可能性があるが、②離婚理由たる不貞行為(民法770条1項1号)には当たらないと判断される可能性がある(ただし、婚姻を継続し難い重大な事由と判断される可能性はある)ということになります。

 

 

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