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離婚・男女問題

【離婚】有責配偶者からの離婚請求が認められるための要件~②未成熟子の不存在~

2021.04.26

1.未成熟子とは

有責配偶者からの離婚請求が認められるための3要件のうちの2つ目が「未成熟子がいないこと」です。

 

未成熟子というのは、いまだ経済的、社会的に自立して生活することができない状態にある子どものことをいいます。

 

ということは、未成年者と未成熟子は必ずしも一致しないということです。

 

成人していても、大学に在学中であったり、心身に障害があり自立して生活ができないような場合には、未成年ではないが未成熟子にあたるというようなこともあり得ます。

 

では、未成熟子がいる場合にはどのような場合でも有責配偶者からの離婚請求は認められないのでしょうか?

 

今回はこの問題について解説したいと思います。

 

 

2.未成熟子の不存在要件の解説

昭和62年最高裁判例解説には次のような記載があります。

※下線は当事務所によるもの

 

夫婦の別居期間が長期にわたる場合には、本件事案もそうであるように、未成熟子が存在しない場合が多いと考えられるが、未成熟子が存在する場合には、原則どおり、子の利益について斟酌しなければならない。本判決は、長期別居に並べて未成熟子の不存在を掲げているが、これは、本件事案を前提に、未成熟子のいない多くの場合を想定して子の利益に関する特別の配慮を要しないことを示したものであって、未成熟子が存在する場合に原則的破綻主義を放棄したものではないことはいうまでもない。したがって、未成熟子が存在する場合については、おそらく、離婚によって子の家庭的・教育的・精神的・経済的状況が根本的に悪くなり、その結果、子の福祉が害されることになるような特段の事情のあるときには、離婚をすることは許されないということになるのであろう(昭和62年最判解説585頁)。

 

 

また、別の文献には次のような記載があります。

 

未成熟子が高校生以上である場合には、その精神的な成長度や今後の監護を要する期間が比較的短いことなどから、有責性の程度、別居期間の長さ、その間の監護状況、今後の監護態勢及び経済的状況等を踏まえ、離婚請求が信義誠実の原則に反しないとされることがある(秋武・岡『離婚調停・離婚訴訟』135頁)。

 

これらの記載からすると、未成熟子がいたとしても子の福祉が害されなければ有責配偶者からの離婚請求が認められる余地があると解釈することができそうです。

 

特に子どもが高校生以上であれば未成熟子であったとしても、「未成熟子がいる」ということだけで直ちに有責配偶者からの離婚請求が認められないということにはならないと考えられます。

 

つまり、未成熟子の不存在という要件については、未成熟子がいれば絶対に有責配偶者からの離婚請求が認められないというような絶対的なものではないということになります。

 

 

3.裁判例

では、実際の裁判例を見てみましょう。

 

①最高裁平成6年2月8日判決

有責配偶者からされた離婚請求で、その間に未成熟の子がいる場合でも、ただその一事をもって右請求を排斥すべきものではなく、前記の事情を総合的に考慮して右請求が信義誠実の原則に反するとはいえないときには、右請求を認容することができると解するのが相当である

 これを本件についてみるのに、前記事実関係の下においては、上告人と被上告人との婚姻関係は既に全く破綻しており民法七七〇条一項五号所定の事由があるといわざるを得ず、かつ、また被上告人が有責配偶者であることは明らかであるが、上告人が被上告人と別居してから原審の口頭弁論終結時(平成五年一月二〇日)までには既に一三年一一月余が経過し、双方の年齢や同居期間を考慮すると相当の長期間に及んでおり、被上告人の新たな生活関係の形成及び上告人の現在の行動等からは、もはや婚姻関係の回復を期待することは困難であるといわざるを得ず、それらのことからすると、婚姻関係を破綻せしめるに至った被上告人の責任及びこれによって上告人が被った前記婚姻後の諸事情を考慮しても、なお、今日においては、もはや、上告人の婚姻継続の意思及び離婚による上告人の精神的・社会的状態を殊更に重視して、被上告人の離婚請求を排斥するのは相当でない。

 上告人が今日までに受けた精神的苦痛、子らの養育に尽くした労力と負担、今後離婚により被る精神的苦痛及び経済的不利益の大きいことは想像に難くないが、これらの補償は別途解決されるべきものであって、それがゆえに、本件離婚請求を容認し得ないものということはできない。

 そして、現在では、上告人と被上告人間の四人の子のうち三人は成人して独立しており、残る三男Dは親の扶養を受ける高校二年生であって未成熟の子というべきであるが、同人は三歳の幼少時から一貫して上告人の監護の下で育てられてまもなく高校を卒業する年齢に達しており、被上告人は上告人に毎月一五万円の送金をしてきた実績に照らしてDの養育にも無関心であったものではなく、被上告人の上告人に対する離婚に伴う経済的給付もその実現を期待できるものとみられることからすると、未成熟子であるDの存在が本件請求の妨げになるということもできない

 

子どもが高校2年生のケースにおいて、有責配偶者からの離婚請求が認められました。

 

 

②福岡高裁那覇支部平成15年7月31日判決

 そもそも,被控訴人の主張のとおり,離婚請求が認容されたからといって,戸籍上の父子関係が断たれるわけではなく,ましてや,実質的な父子関係が断たれるものでもない。逆に,離婚請求を棄却したところで,法をもってしては夫婦間の愛情の生成ないし受容を強制することができないのと同様に,被控訴人が,控訴人が現実に養育している2人の子とともに暮らせることになるわけではなく,被控訴人と2人の子の間に現実的な父子としての生活関係が構築されるものでもないから,この観点からいえば,被控訴人と控訴人の法律上の夫婦関係を維持することは,被控訴人と2人の子との間の実質的な父子関係の維持については全く意味はない。一方,被控訴人と控訴人の間の関係が2人の子に対していかなる影響を及ぼすかを検討すると,前記第2の3の(6)に認定したように,Aから被控訴人に対して,4月分の送金後,4回にわたり,減額についての抗議のメールがあった事実からは,客観的にみて,被控訴人と控訴人の間の離婚を巡る紛争に子供までが巻き込まれていることは明らかであり,このことからも推認できるように,離婚請求を棄却することによって,形骸化した夫婦関係を放置することになり,そのような事態の中で,被控訴人と控訴人の間の葛藤,緊張が継続又は増大し,それが未成熟の子に大きな影響を与える結果を生じることになるのは必定であって,かえって,子の福祉を害する危険性さえあるといわなければならない。前記第2の3の(7)に認定したように,被控訴人と2人の子の間の連絡が一時途絶えたのは,その現れともいえなくもない。

 たしかに,弁論の全趣旨によれば,控訴人自身が,その真意は測りかねるものの,形式的な単なる戸籍上だけの夫婦関係の維持によって,その精神的安定を保持している節が窺え,その影響を受けてか,2人の子も被控訴人と控訴人が離婚しないことにその精神的安定の拠り所を求めていることが窺える。そして,そのことからは,離婚請求が認容されると,両者に対して精神的な打撃が生じることは肯定せざるをえない。しかし,控訴人のそれに対しては,慰謝料を持って対応しうることは既に説示したとおりであるし,2人の子のそれについても,控訴人において,2人の子に対して,「お父さんとお母さんの関係はうまく行かなかったけれど,あなたたちとお父さんの関係は今までと変わらない。」ことを懇切に説くことによって対処可能である。そして,弁論の全趣旨によれば,被控訴人においても,父子関係を断つつもりもないし,現に,経済的負担はしているし,面接交渉にも誠実に対応していく意思であることが認められる。

 以上を総合すると,離婚請求を棄却し,被控訴人と控訴人との間の実質を伴わない形骸化した形式だけの夫婦関係を維持したところで,被控訴人と2人の子の現実の生活上の父子関係を回復できるわけではなく,かえって,夫婦間の葛藤,緊張が子の福祉に悪影響を及ぼす危険があって,弊害の方が大きく,離婚請求を認容しても,それが子に与える精神的打撃については対処可能であり,実質的な父子関係を維持して行くことも可能であり,被控訴人もその意思であり,かつ,被控訴人のこれまでの現実の行動を見ると今後もそれが継続されることが期待できると認められ,その弊害は対処可能であると解されるから,離婚請求を認容した場合,子の福祉が害されるとはいえないと認められる。

 

➢判決時の子どもの年齢は12歳と10歳というケースで、有責配偶者からの離婚請求が認められました。

 

 

③大阪高裁平成19年5月15日判決

 上記認定判断によれば,婚姻を継続し難い重大な事由が生じた主たる責任は,二男出生直後から丙山との不貞関係を継続し,別居後,実質的な内縁関係を結ぶまでに至った控訴人にあることは明らかである。そして,控訴人と被控訴人との間には,18歳の長男と16歳の二男の2人の未成熟の子がいる

 しかし,以下の事情に照らせば,控訴人が有責配偶者であり,未成熟の子があるからといって,控訴人の離婚請求を信義誠実の原則に反するものとして棄却すべきものとは認められないというべきである。

 すなわち,未成熟の子があるといっても,長男は間もなく大学進学をして寮生活を始める予定であり,ほぼ自立する状況になっており,家庭裁判所調査官の調査によっても両親の離婚によって心情的な影響を受ける可能性は極めて少ないと判断される。長男は,離婚により控訴人が父親としての経済的責任を果たさなくなるのではないか,就職に不利になるのではないかなど,漠然とした不安を持ってはいるが,いずれも具体的なものではない。むしろ,控訴人は,婚姻費用減額審判がされた後は,月額12万6000円の婚姻費用を遅れずに支払っており,本件訴訟においても,1人当たり毎月5万円の養育費の支払の申出をしているほか,当審における一部和解において,離婚慰謝料150万円のほかに,二男の大学進学費用150万円の支払を約束し,債務名義を作成している。このような事実及び現在の控訴人の社会的な立場からみても,離婚したからといって控訴人が父親としての経済的責任を果たさなくなると予想するのは相当でない。

 二男は,既に3歳の時から控訴人と別居しており,控訴人に親和する気持ちはない。もっとも,家庭裁判所調査官の調査によると二男はかなり屈折した形ではあるが控訴人との関係を求めている可能性はある。しかし,父母の離婚には関心はなく,離婚後のことについても特に心配していない。現在は,高校2年に進学し,熱心に部活動に加わり,大学進学への意欲を示すなどしており,上記において検討した経済的な点はともかくとして,離婚によって二男が心情面で影響を受ける可能性は低いと判断される。

 子らの持病も,現在の症状及び通院状況は,日常生活や学校生活に支障を生じるほどのものではない。医療費の支出額も年間6万円程度にすぎず,将来において,高額の医療費が必要になることが具体的に見込まれているものでもない。被控訴人の生活状況についてみても,不安定なパート勤務とはいえ,大阪への転居後既に約5年間勤続しており,養育費の支払なども考慮すれば,子らの成人に至るまでの生活を支えていくことができると認められ,離婚により精神的,社会的,経済的に極めて過酷な状況に追い込まれる事情は認められない。被控訴人は,パート勤務の不安定なことを主張するが,パート勤務が一般的に不安定な職種であるという程度を超えて,具体的に職業の継続や将来の生活に不安があるとまでは認められない。

 このように,当分の間別居生活を続ける旨の調停が成立した後約13年の別居期間が既に経過しようとしており,別居後,控訴人が丙山との間で既に約8年,内縁関係ともいえる同居を続けているのに対し,婚姻後の同居期間は約8年(約2年の家庭内別居の期間を含む。)にとどまり,控訴人と被控訴人はともに46歳に達し,子らも高校生になっていることなどからすると,婚姻関係を破綻させた控訴人の責任及びこれによって被控訴人が被った精神的苦痛や前件離婚訴訟で詳細に認定されている生活の苦労などの諸事情や,さらには前件離婚訴訟の確定後の期間等の点を考慮しても,今日においては,被控訴人の婚姻継続の意思及び離婚による精神的・経済的・社会的影響などを重視して,控訴人の離婚請求を信義誠実に反するものとして棄却するのは相当でない

 被控訴人が今日までに受けた精神的苦痛,子らの養育に尽くした労力と負担,離婚により被る精神的・経済的不利益などについては,慰謝料等の支払や前記のように特別に加算された養育費の支払などを通じて補償されるべきものであって,そのために本件離婚請求自体を容認できないものということはできない。

 

18歳と16歳の高校生の子がいるケースにおいて、有責配偶者からの離婚請求が認められました。

 

 

④東京高裁平成26年6月12日判決

  (3) 有責配偶者からの離婚請求について

   ア 本件では、上記のとおり、控訴人と被控訴人との婚姻関係は既に破綻しており、民法七七〇条一項五号所定の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するというべきであるが、被控訴人は、控訴人は夫以外の男性と交際しており、そのために被控訴人との離婚を求めているものであって、いわゆる有責配偶者に該当するから、控訴人からの離婚請求は信義則に反するものとして認められるべきではないと主張しているので、この点について検討する。

   イ まず、控訴人は、被控訴人との婚姻関係は平成二一年八月又は平成二三年九月には既に破綻していたと主張している。しかし、上記認定のとおり、控訴人は、平成二三年三月一一日の東日本大震災の後、その被害を恐れて未成年者らを連れてフランスの控訴人の実家に避難していたのであるが、同年五月には、被控訴人は、控訴人と未成年者らに会うためにフランスに出向き、その際、控訴人と被控訴人は、未成年者らを控訴人の両親に預けて二人でバルセロナ旅行に行くなどしていたのであるから、その時点では、まだ婚姻関係が修復される可能性が残っていたことは明らかである。しかも、その後も控訴人と被控訴人の婚姻関係はギクシャクしていたものの、亀裂が決定的というほどではなかったのであって、控訴人は平成二四年五月三〇日に別居を開始しているから、その直前に婚姻関係を破綻に導くような出来事があったと考えるのが自然であるところ、控訴人は、平成二三年一〇月から一二月頃にCと交際し、さらに平成二四年三月頃にはDと交際するようになって、被控訴人に対して離婚してほしいと伝えているのであるから、控訴人と被控訴人の婚姻関係が決定的に破綻したのは、主に控訴人がCやDと不貞行為に及んだためであるというべきである。したがって、平成二一年八月又は平成二三年九月の時点で既に二人の婚姻関係は破綻していたとの控訴人の主張を採用することはできない。その意味で、控訴人は有責配偶者であり、控訴人による本件離婚請求は有責配偶者からの離婚請求ということになる。

   ウ ところで、民法七七〇条は、裁判上の離婚原因を制限的に列挙していた旧民法(昭和二二年法律第二二二号による改正前の明治三一年法律第九号。以下同じ。)八一三条を全面的に改め、一項一号ないし四号において主な離婚原因を具体的に示すとともに、五号において「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」との抽象的な事由を掲げているところ、同条二項は、法定の離婚原因がある場合でも離婚の訴えを提起することができない事由を定めていた旧民法八一四条ないし八一七条の規定の趣旨の一部を取り入れて、一項一号ないし四号に基づく離婚請求については、各号所定の事由が認められる場合であっても、二項の要件が充足されるときは離婚請求を棄却することができるとしているのであるが、一項五号に基づく請求についてはかかる制限は及ばないものとしているのであって、民法七七〇条の立法経緯及び規定の文言からみる限り、同条一項五号は、夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成し得なくなり、その回復の見込みがなくなった場合には、夫婦の一方は他方に対して、訴えにより離婚を請求することができる旨を定めたものと解されるのであって、同号所定の事由(以下「五号所定の事由」という。)につき何らかの責任のある一方の当事者は、いかなる場合でも離婚を請求することができないとまで定めたものではないというべきである。もっとも、五号所定の事由がありさえすれば常に離婚請求が認められるとすると、自らその原因となるべき事実を作出した一方の配偶者において、そのことを自己に有利に利用して一方的に他方の配偶者に対して離婚を求めることができる事態となって、他方の配偶者の立場を著しく不安定なものとして、夫婦間の信義則に反する結果となるから、そのような離婚請求を許容するべきではないことはいうまでもない。そして、憲法二四条の趣旨に照らし、婚姻は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことを本質とするものであるから、夫婦の一方又は双方が既にその意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠き、その回復の見込みが全くない状態に至り、もはや社会生活上の実質的基礎を失っている場合においてまで、なお戸籍上の婚姻を存続させることは不自然であり、不合理であるといわざるを得ないが、それと同時に、婚姻関係が法律秩序の一環である以上、その離婚請求が正義や公平の観念、社会的倫理の観念に反し、信義誠実の原則に反するものであるときは、これを許容することは相当ではないというべきである。そして、五号所定の事由による離婚請求が、その事由につき専ら責任のある一方の当事者(有責配偶者)からなされた場合において、その請求が信義誠実の原則に照らして許容されるか否かを判断するに当たっては、有責配偶者の責任の態様・程度はもとより、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、特に未成熟子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係等が斟酌されるべきである(最高裁昭和六一年(オ)第二六〇号同六二年九月二日大法廷判決(民集四一巻六号一四二三頁)。そして、これまでそのような有責配偶者からの離婚請求が否定されてきた実質的な理由の一つには、一家の収入を支えている夫が、妻以外の女性と不倫や不貞の関係に及んで別居状態となり、そのような身勝手な夫からの離婚請求をそのまま認めてしまうことは、残された妻子が安定的な収入を断たれて経済的に不安定な状態に追い込まれてしまい、著しく社会正義に反する結果となるため、そのような事態を回避するという目的があったものと解されるから、仮に、形式的には有責配偶者からの離婚請求であっても、実質的にそのような著しく社会正義に反するような結果がもたらされる場合でなければ、その離婚請求をどうしても否定しなければならないものではないというべきである。

   エ そこで、上記のところを踏まえて本件について検討すると、本件で離婚を望んでいるのは、妻である控訴人であり、控訴人と被控訴人の婚姻関係が決定的に破綻したのは、主に控訴人がCやDと不貞行為に及んだことが直接の原因ではあるものの、上記認定のとおり、最初に離婚を切り出したのは被控訴人であり、しかも、控訴人に被控訴人の言うことを聞かせようとして、被控訴人が控訴人の携帯電話やメールやクレジットカードを使えなくするなど実力行使に出て、控訴人の人格を否定するような行動をとったため、控訴人において被控訴人に対する信頼を失い、夫婦としての亀裂が急速に拡大していったものであって、控訴人がもはや被控訴人と婚姻関係を継続することはできないと考えるようになり、CやDと交際するようになったことについては、フランス人として個人の自由や権利を尊重することを当然のこととする控訴人の気持ちや人格に対する十分な理解や配慮を欠き、控訴人を追い詰めていった被控訴人にも相応の原因があるというべきであり、控訴人と被控訴人との婚姻関係が破綻した責任の一端が被控訴人にもあることは、明らかというべきである。そして、控訴人と被控訴人の間には、現在六歳の長男と四歳の長女がいるが、控訴人としては、働きながら両名を養育監護していく覚悟であることが認められるところ(証拠〈省略〉)、後記認定のとおり、控訴人による養育監護の状況等に特に問題もないことを考慮すれば、控訴人の本件離婚請求を認容したとしても、未成年者の福祉が殊更害されるものとは認め難いというべきである。また、本件では、被控訴人は、もともと控訴人との離婚を求めていた経緯があるだけではなく、後記認定のとおり、平成二五年度において約九六一万円の年収があり、本件離婚請求を認めたとしても、精神的・社会的・経済的に著しく不利益な状態に立ち至るわけでもないと考えられる。そうすると、本件については、確かに、形式的には有責配偶者からの離婚請求ではあるものの、これまでに述べた有責配偶者である控訴人の責任の態様・程度はもとより、相手方配偶者である被控訴人の婚姻継続についての意思及び控訴人に対する感情、離婚を認めた場合における被控訴人の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子である未成年者らの監護・教育・福祉の状況、別居後に形成されている相互の生活関係等を勘案しても、控訴人が求めている離婚請求は、社会正義に照らして到底許容することができないというものではなく、夫婦としての信義則に反するものではないというべきである。したがって、本件離婚請求は理由があり、認容するのが相当である。

 

6歳と4歳の子がいるケースにおいて、有責配偶者からの離婚請求が認められました。

 

 

4.まとめ

以上見てきたとおり、未成熟子の不存在という要件は絶対的なものではないということがお分かりいただけたかと思います。

 

そもそも、未成熟子の不存在という要件を有責配偶者からの離婚請求の要件として考慮することに疑問を呈する見解もあるところです。

 

さて、これまで相当長期間の別居という要件、未成熟子の不存在という要件を見てきました。

 

残すところは、いわゆる「苛酷条項」(相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと)です。

 

これについては、また次回以降に解説したいと思います。

 

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