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相続

【相続】「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)とは何なのか?

2021.05.11

1.はじめに

「相続させる」旨の遺言という言葉を聞いたことはありますか?

 

相続案件を扱う弁護士であれば、当然のように使う言葉ですが、意外と一般の方にはなじみのない言葉かもしれません。

 

今回は、この「相続させる」旨の遺言について解説したいと思います。

 

「相続させる」旨の遺言とは、たとえば「長男に不動産を相続させる」というように、特定の遺産を特定の相続人に相続させる内容の遺言のことをいいます。

 

改正相続法では、このような遺言を「特定財産承継遺言」という名称になっています(民法1014条2項)。

 

ここまでの説明で「『相続させる』という内容以外の書き方ってあるの?」という疑問を持たれる方もおられるかもしれません。

 

「相続させる」という書き方以外の一例として「遺贈する」という書き方があります。

 

では、「相続させる」と書くか「遺贈する」と書くかで何か違いがあるのでしょうか?

 

 

2.「相続させる」と記載する理由・メリット

実務においては、特定の相続人に特定の財産を取得させる場合、「遺贈する」ではなく、「相続させる」と記載するのが一般的です。

 

これには以下のような理由があります。

 

①登記手続が簡便になる

所有権移転登記手続において、「遺贈する」とした場合には他の共同相続人と共同で申請をしなければなりません(不動産登記法60条、昭和33年4月28日民事甲779号民事局長通達)。

 

これに対して、「相続させる」とした場合であれば、受益者(相続人)が単独で申請することが可能になります(不動産登記法63条2項、昭和47年4月17日民事甲1442号民事局長通達)。

 

したがって、「相続させる」旨の遺言にしておけば、不動産を取得する者にとって登記手続が簡便になるというメリットがあるということになります。

※追記
法改正により令和5年4月1日以降は、相続人への遺贈登記に限り、共同申請ではなく権利者からの単独申請が認められるようになりました。

 

②賃貸人の承諾が不要

遺産が借地権・賃借権の場合、「遺贈する」とした場合には賃貸人の承諾が必要となります(借地借家法19条、民法612条1項)。

 

これに対して、「相続させる」とした場合であれば賃貸人の承諾は不要です。

 

このように、「相続させる」旨の遺言にはメリットがあることから、実務においては「相続させる」旨の遺言が利用されるわけです。

 

 

ちなみに、農地法3条の許可が不要という点や登録免許税が安いという点を「相続させる」旨の遺言のメリットとして挙げているサイトがあるようです。

 

しかし、現在は特定の相続人に対する遺贈の場合であっても農業委員会の許可は不要とされています(農地法3条1項16号、3条の3、農地法施行規則15条5号)。

 

また、登録免許税についても平成15年4月1日から施行された登録免許税の改正により遺贈の場合も「相続させる」旨の遺言の場合も同一の税率が適用されるようになっています。

 

そのため、農地法3条の許可の点と登録免許税については、「相続させる」旨の遺言に特にメリットがあるというわけではありません。

 

 

3.相続人以外に「相続させる」とすることはできるか?

上記のとおり「相続させる」旨の遺言には、「遺贈する」と記載した場合と比べて一定のメリットがあるといえます。

 

しかし、当然ながら相続人以外の者は「相続する」わけではないので、相続人以外の者に対して「相続させる」と記載したとしても遺贈と扱われることになります。

 

たとえば、遺言者の子Aの子B(遺言者の孫)は、Aが存命中は遺言者の相続人ではありませんので、たとえ「Bに相続させる」という遺言を書いたとしても遺贈と解釈されるというです。

 

 

4.「相続させる」旨の遺言をどのように解釈するか

ここまで「相続させる」旨の遺言と遺贈を対比しながら説明してきましたが、「相続させる」旨の遺言というのは結局どういうものなのかということがかつて論点になっていました。

 

下級審においては、「相続させる」旨の遺言も遺贈と同じだと解釈するものや、遺産分割方法の指定であるが、遺言によって確定的には所有権は移転せず遺産分割協議によって確定的に所有権が移転すると解釈するものなどがありました。

 

この点、最高裁平成3年4月19日判決は次のように判示し、この論点に決着がつけられました。

 

遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば、遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。そして、右の「相続させる」趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法九〇八条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。そしてその場合、遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、右の協議又は審判を経る余地はないものというべきである。

 

➢ポイント

①遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。

 

②遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される。

 

 

このように、最高裁は、原則として(特段の事情がない限り)、①「相続させる」旨の遺言を遺産分割方法の指定としたうえで、②特定相続人が特定財産の所有権を確定的に取得する時期は遺言の効力発生時期(別途遺産分割協議は不要)と解釈しました。

 

 

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